【日経QUICKニュース(NQN) 菊池亜矢】27日の東京株式市場で三井不動産(8801)株が上昇し、朝方に一時前日比3.2%高となった。東京ドーム(9681)に対してTOB(株式公開買い付け)を実施する方針を固めたなどと報じられ、相乗効果を期待した買いが集まった。このところ、不動産関連株のTOBが相次いでおり、割安に放置されていた不動産株の見直しにつながる可能性もある。
■買収金額は「妥当」
報道を受け、27日午前に三井不と東京ドームは「本日開催の当社取締役会に付議する予定」とのコメントを発表した。日本経済新聞などの報道によると買収額は1000億円超となる見通し。東京ドーム株の26日終値は897円、時価総額は859億円、PBR(株価純資産倍率)は1倍を下回っていた。市場からは1000億円程度で取得できるのであれば妥当との声が聞かれる。東京ドームには値幅制限の上限まで買い注文が入り、気配値で計算した時価総額は1000億円を超えている。
買収劇には新型コロナウイルスの感染拡大が影響した可能性がある。東京ドームは開催予定のスポーツやイベントの中止、営業施設の休業などで2021年1月期の連結最終損益は180億円の赤字となる見通しを示していた。もっとも、前期は80億円、その前の期は69億円の黒字を稼ぎ出しており業績は好調だった。東京ドームは東京駅からおよそ10分の好立地で、ホテルを併設するなど集客力は高い。訪日客を中心に観光スポットでもあるなど知名度もある。新型コロナ前の東京ドームの年間稼働率は毎年90%近かった。
大手デベロッパーの視点でも、水道橋エリア(東京・千代田)の優良物件は魅力的だ、藍沢証券の笹木義次シニアアドバイザーは「ショッピングモールやホテルなども展開する三井不にとって、東京ドームを有効利用する将来図は描きやすい。東京ドームにとってもコロナ禍が続くなか、安定株主が確保できるメリットは大きい」と相思相愛の関係ではないかと指摘する。
■なぜTOBが続くのか
今回のディールに限らず、視線を広げてみると不動産業界は足元で急速にうごめいている。今月に入り、ストラテジックキャピタルによる京阪神ビルディング(8818)へのTOBや、三井住友ファイナンス&リースによる不動産投資ファンドのケネディクス(4321)へのTOBなど、不動産関連株へのTOBが相次いでいる。
不動産株へのTOB発表が続く理由について、モルガン・スタンレーMUFGの竹村淳郎株式アナリストは26日付リポートで、(1)不動産株が解散価値を大きく下回る水準で売買されていること(2)緩和的な金融政策がとられるなか資本市場の資金量が豊富であること(3)COVIDー19(新型コロナウイルス)の影響で不動産株を取り巻く経営環境が変化したことで、再編に向けた動きが加速している――、との見方を示した。
振り返ると、19年7月にエイチ・アイ・エス(9603)がユニゾホールディングス(上場廃止)に対してTOBを開始した。最終的にユニゾHDの従業員による買収が成立したものの、コロナ禍での先行き不透明感から不動産株の見直し機運は高まらなかった。
だが、ここにきて動く不動産業界。香港の投資ファンド「オアシス・マネジメント」は、十分に資産を生かし切れていないとして東京ドームの長岡勤社長ら取締役3人の解任を要求していた。「不動産株が割安に放置されていることに対する周囲の目はずっと残っており、今後、不動産業界の再編が動意付くきっかけになるかもしれない」(国内シンクタンクのアナリスト)