【日経QUICKニュース(NQN) 末藤加恵】外国為替市場で円が全面安の様相を呈している。2月16日は円が対米ドルで下げただけでなく、ユーロやオーストラリア(豪)ドルに対しては約2年2カ月ぶりの安値をつけた。日経平均株価が30年半ぶりの3万円台を回復し、さらに騰勢を強めるなど世界的な株高に歩調を合わせるように、米ドル以外の通貨ペアである「クロス円」取引での円売りが加速している。新型コロナウイルスのワクチン接種が進み、景気や物価の改善を織り込む「リフレトレード」が本格化している。
■景気回復が現実味
16日の東京外為市場では、円が対ユーロで一時1ユーロ=128円26銭近辺、対豪ドルで1豪ドル=82円40銭近辺と、ともに2018年12月以来の安値をつけた。英ポンドに対しても円は一時1ポンド=147円30銭近辺と、前日の17時時点から約0.8%下落した。17日の取引でも同程度の水準で推移している。
※円の対ユーロ、豪ドル、英ポンド、米ドルレート
2月以降、円相場は対米ドルでは1ドル=105円を挟んで膠着感を強めているが、通貨の総合的な強さを示す「円インデックス」は下落基調だ。日銀が算出する円インデックスは12日時点で103.11だった。5日には103.03と昨年2月21日(102.77)以来、約1年ぶりの低水準を付けており、対米ドル以外での円安進行が指数の下押し圧力となっている。
「低リスク通貨」に位置づけられる円は、株高など投資家がリスク選好を強める局面では売りが出やすい。米国ではコロナワクチンの接種が進み、追加経済対策の早期成立期待も高まっている。米連邦準備理事会(FRB)も金融緩和に前向きな姿勢を保つ公算が大きく、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作氏は円全面安の背景を「緩和下での景気回復が現実味を帯び、強気に傾いた投資家によるリフレトレードが活発になっている」とみる。
■資源国通貨や新興国通貨の買い
中国や米国の景気回復期待を背景に、このところ原油や銅など資源価格が上昇している。豪ドルなど資源国通貨や新興国通貨の買いを誘い、クロス円取引での円売りを促している。米債券市場では長期金利だけでなく、超長期債の利回りも上昇基調で「財政懸念を背景にした『悪い金利上昇』から、景気回復を織り込む『良い金利上昇』との受け止めに市場が変わってきている」(植野氏)のも投資家心理を強気に傾ける。
ヘッジファンドなど投機筋の変化も円安進行を後押しする。米商品先物取引委員会(CFTC)で投機筋(非商業部門)の米ドルに対する円の買い越し幅は9日時点で3万4618枚と、年初のピーク(5万520枚)から減少傾向だ。豪ドルの売り越しは昨年3月(5万4013枚)から足元では216枚まで縮小。ポンドは昨年6月の3万枚を超える売り越しから足元では約2万枚の買い越しに転じた。あおぞら銀行の諸我晃氏は「円の買い持ち解消が出やすい一方、豪ドルやポンドが買われやすいこともクロス円取引での円安につながった」と話す。
※CFTCポジション動向(日本円)
※CFTCポジション動向(豪ドル)
※CFTCポジション動向(英ポンド)
16日まで日経平均が連日で大幅高となるなど、急ピッチな株価上昇を警戒する声は増えつつある。だが、「FRBが(金融政策を引き締め方向にする)『タカ派』へと明確に転換しない限り、リスク資産にマネーが流入しやすい」(りそな銀行の武富龍太氏)との見方は根強く、クロス円主導の円安は続く公算が大きい。