【日経QUICKニュース(NQN) 船田枝里】ESG(環境・社会・企業統治)債で新たな種類が出てきた。マルハニチロ(1333)は27日、海洋保護などにつながる事業に資金使途を限定する「ブルーボンド」の発行条件を決めた。ブルーボンドの起債は国内初で、グリーンボンド(環境債)やトランジションボンド(移行債)などと並んで新たな「ラベル」がつく見込みのESG債は投資家から高い関心を集めたようだ。
■サーモンの陸上養殖事業に
マルハニチロが27日に条件を決めたブルーボンドは5年物で、利率は0.550%となった。21日から始めた需要調査では利率として0.52~0.56%を提示。世界的に国債利回りが上昇(価格が下落)する厳しい環境下で上限に近い水準での条件決定となったものの、投資家からは最終的に約60億円と発行額(50億円)の1.2倍を超える需要を集めた。
主幹事を務めたみずほ証券によると「ブルーボンドという希少性に加え、(業績が安定している)食品会社の社債だったことが人気化の要因となった」という。販売先も生命保険会社、損害保険会社、系統上部、地方銀行、系統下部、諸法人と多岐にわたった。
マルハニチロは調達する資金を富山県入善町で始めるサーモンの陸上養殖事業などに充てる。18日には三菱商事(8058)とともに新会社「アトランド」を設立したと発表しており、施設は2025年に稼働する予定だ。
■容易ではない発行
ブルーボンドの歴史は浅い。18年にインド洋の島国セーシェルが発行したのが世界初とされ、発行が一般的となったグリーンボンドのように国際資本市場協会(ICMA)などが定める明確な原則はない。世界でも発行例は数件にとどまり、大和証券の市川香織ストラテジストは「調査や分析に時間がかかり、一般事業会社はブルーボンド発行の検討に取り組むことさえ容易ではなかった」と話す。
それでもマルハニチロが発行にこぎ着けたのは「借り入れという選択肢もあるなかで、ブルーボンドへの取り込みをPRしたいという気持ちだった」(IR担当者)ためだ。
起債にあたって同社は9月にブルーファイナンス・フレームワークを策定したと発表。ブルーボンドのガイドラインがないなかで、ICMAが定めるグリーンボンド原則などとの適合性について格付投資情報センター(R&I)からセカンド・パーティー・オピニオンを取得してESG債であることを担保している。
今秋にはICMAなどの国際機関が共同で、ブルーボンドに関する国際的なガイダンスを策定する予定だ。大和の市川氏は「ブルーボンド市場は10年前のグリーンボンド市場と似ており、ガイドラインが整備されれば事業会社の発行が増える可能性がある」と期待を寄せる。マルハニチロの起債はESG債市場が一段と盛り上がるきっかけとなりそうだ。