日経平均株価の上値の重さが目立ち始めた。NT倍率は15日の終値時点で12.55。11月17日に一時、12.77まで拡大したのをピークに緩やかな低下傾向にある。背景には、日経平均への寄与度が高いソフトバンクグループ(9984)株の値動きがある。
10月30日に1万550円の年初来高値を付けたソフトバンク株だが、気づくと株価のピークアウト感が鮮明になっている。12月14日は9042円まで下落し高値から14%下げた。
株価動向を左右してきた一因には、傘下の米通信大手スプリントがある。高値を付ける2週間前、TモバイルUSとの経営統合で大筋合意と伝わっていた。お荷物となっていたスプリント問題にもようやく光明が差すとの期待感がソフトバンク株を支えていた様子がわかる。暗転したのは10月31日。スプリントとTモバイルの経営統合を中止するとの報道だった。
ただ、足元で進む株価の調整は財務面を警戒したものではないようだ。ソフトバンクは多額の借金を抱え込んでいる。それでもクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の値動きを見る限り、プレミアムが上昇している様子は確認されない。
あえて株価のピークアウトの理由を考えるとすれば、孫正義社長流の剛腕経営に対する期待感が剥落した可能性だ。12月14日も下落率が2%を上回って引けるなど、主要株の中では下げが目立った。この日は楽天(4755)が携帯電話事業へ参入を表明した。3社寡占の国内携帯通信事業。シェア争いの激化が予想され、KDDI(9433)とNTTドコモ(9437)と共に売られた。この局面では守勢に回らざるを得ず、孫社長が得意とする攻めの姿勢は評価対象にはなりにくい。
4社の12月15日寄り付き直後の株価
需給面にも気がかりな点が浮上したのが今週だ。11日の取引所外取引では、売買代金が合計で419億円に膨らんだ。翌12日も319億円、13日は106億円だった。14日は現時点で8億円しか確認されていない。特殊な取引も短期間で終了した可能性がある。それでも4日間の合計は850億円を上回る。大口プレーヤーがソフトバンク株を外していたのかもしれない。
取引所外の動向はソフトバンクに限った話ではない。ファナック(6954)、東エレク(8035)でも11日に商いが膨らみ、翌日以降に徐々に減少した商いが確認されている。この2銘柄も最近のチャートはソフトバンクと似ているうえ、日経平均における高い構成比銘柄でもある。ソフトバンク外しなのか、日経平均外しなのか、厳密な判断は難しい。
単なる日本国内の需給動向なのか。海外に目を向けると違った切り口も見える。11月末前後、米エヌビディアや中国のアリババにテンセント、さらに韓国のサムスン電子に半導体大手の台湾積体電路製造(TSMC)も軒並み株価が変調をきたした。
グロース株からバリュー株への乗り換えと言ってしまえばそれで終わるかもしれない。ただ、ソフトバンクを筆頭に東エレクやファナックがグローバルのマネーフローに飲み込まれている結果が、日経平均の上値を重くしている可能性は高い。
ブラックロックは来年も新興国の株式と日本株に投資妙味があるとしている。単なる調整で終わるのか。再浮上を見込むならエントリーする水準はどこなのか。アジアも巻き込んだハイテク株の調整に対し、先行性を見せたソフトバンク。その値動きに次の投資のヒントが隠されているのかもしれない。
【QUICKデリバティブズコメント・岩切清司】
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