NQN香港=桶本典子
創業者・馬雲(ジャック・マー氏)の写真=Chesnot/Getty Images
米ニューヨーク市場に米預託証券(ADR)を上場する中国電子商取引(EC)最大手のアリババ集団が26日、香港株式市場に上場する見通しとなった。アリババの香港上場観測が最初に浮上したのは2013年。今年も1度断念しており、6年越しの「3度目の正直」となる。投資家の反応は良好といい、中国の投資家層の拡大や株価の安定を期待する雰囲気が広がっている。
アリババは15日朝、香港上場に向けた目論見書を開示した。5億株の新株を発行し、最大1076億500万香港ドル(約1兆4600億円)を調達する。公開価格の仮条件の上限は188香港ドルで、20日に公開価格を決める。信報など香港メディアによると、一般投資家向けに先立って開始した機関投資家向け公募は、割り当て分が初日に完売するなど好調という。
取引所が種類株を認める制度変更
香港市場の最初の「アリババ上場フィーバー」は13年にさかのぼる。12年6月にそれまで香港市場に上場していた傘下のアリババ・ドット・コムを非公開化しており、市場では「大本命」の上場期待が高まった。しかし、経営陣が取締役を任命できる「パートナー制」などを巡って香港取引所側と折り合わず、ニューヨーク市場を上場先に選んだ経緯がある。
2度目は今年だ。アリババの上場見送りが上場ルールを見直す呼び水となり、香港取引所は18年、経営陣に強力な議決権を与える種類株を認めるよう制度を変更した。そもそも香港上場をメーンシナリオとしていたアリババにとって障壁がなくなり、今年8月にも上場するとみられていた。しかし、香港では6月から抗議デモが深刻化し、当面上場を延期する方針を決めていた。
本土の投資マネーにこだわり、米中摩擦にも備え
アリババが香港上場にこだわる理由は「中国の投資家を呼び込むため」(TCコンコルド証券投資総監・潘鐵珊氏)とされる。アリババに限らず、米国に上場する中国銘柄はなじみの乏しさなどから株価が低迷しがちで、実際の顧客が多い中華圏での上場を望む企業は多い。アリババの香港上場によって、百度(バイドゥ)など米国に上場する他の中国銘柄の回帰に弾みが付くとの声も聞かれる。
さらに「米中摩擦を背景に、もし米上場の中国系株の取引が制限された場合の保険」(中国メディア)との見立てもある。米国では今月、同国議員らが年金基金による中国株投資を禁止する法案を議会に提出したと伝わった。9月には同様の観測でアリババ株が急落した場面があり、国家間の問題が個別株に飛び火するリスクを軽減する効果も見込めそうだ。
調達規模は当初から縮小、熱狂どこまで
ネットインフラ企業としてのアリババの存在感は、13年当時に比べ飛躍的に拡大した。11日に開催した中国最大のネット通販セール「独身の日」の売上高は2684億元(約4兆1000億円)と過去最高を更新。米市場での株価も、14日終値は182.8ドルと5月の年初来高値(195.72ドル)に接近しており、「アリババを買いたい中国の投資家は多い」(TCコンコルド証券の潘氏)。今後は投資家層の拡大が株価を押し上げる展開も考えられる。
ただ、上場期待がしぼむたびに、投資家の熱狂もやや冷めてしまった面は否めない。資金調達規模は13年当時や今年春に観測された200億ドルから縮小した。中国ネット市場の「巨人」が、香港市場でも抜群の存在感を示せるか、まずは滑り出しを見定める必要がありそうだ。
※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。