日経QUICKニュース(NQN)=松井聡
ペッパーフードサービス(3053)が苦しんでいる。主力のステーキ店「いきなり!ステーキ」で高い原価率を高い顧客回転率で補い資産効率化を図る「高回転経営」に成功。2017年12月期には連結純利益が最高(13億円)となった。だがブーム一服後も需要が続くと見て積極出店を続け、店舗の地力低下で業績は低迷。自己資本比率は19年9月末時点で5%を下回り安定性に乏しい。財務を点検すると止血すべき段階で処置しなかったことが分かる。
前日8日の東京株式市場でペッパー株は一時1125円まで下落し、株式分割ベースで17年4月28日以来およそ2年8カ月ぶりの安値を付けた。9日は0.8%高となったものの、日経平均株価が2.3%上昇したのに比べると戻りは鈍い。
1月某日。記者は都内のある「いきなり!ステーキ」店舗を訪れた。これまで20回以上店舗を訪れ、かつては週1回ペースで通っていたこともあったが、訪れたのは実に19年2月以来およそ1年ぶりだ。ブーム時には店外で行列があり待つことも多かったが、客は10人ほどで絶頂期と比べるとやや寂しい印象を受けた。
いきなり!ステーキは13年に立ち食い専門店として1号店を出店して以降、19年11月には489店まで店舗を急増させた。1グラム単位で肉を好みの大きさに切り分ける量り売りする目新しさや、高級な印象が強いステーキを値ごろ感のある価格で提供する戦略が受けブームとなった。高い原価を顧客の回転率を上げることで補い利益を拡大し「高回転経営の優等生」としての地位を確立した。
そんな優等生の成長シナリオに市場で懐疑的な目が向けられるようになったのは18年4月、店舗数が約250店になったときだ。好調が続いていた既存店売上高が前年同月比1.7%減と突然、マイナスに転じたのだ。
会社側は「積極出店で自社店舗間で競合したことが悪化を招いた」(IR担当者)と説明する。一方で、かつて頻繁に通っていた30歳代のある会社員男性は「糖質制限ブームもあって訪れていたが、商品の値上げや他社でも同じような業態が生まれ足が遠のいた」と話す。「既存店の減少よりも前に、いきなり!ステーキの人気は下火になっていた」とする利用者の声もある。
既存店の減収が始まる1年前には既に強みだった高回転経営にひずみが生まれていた。QUICK・ファクトセットによると、短いほど資産効率化が進んでいるとされる「棚卸し資産回転日数」は17年6月時点で2.0日だったのを底に、19年9月には3.2日に伸びていた。商品在庫が売り上げに計上されるまでに時間がかかるようになっており、資産効率は低下していた。
店舗は足元で約500店まで増加。いちよし経済研究所の鮫島誠一郎主席研究員は「ステーキで成功している老舗のビッグボーイジャパン(東京・港)も約300店にとどまる。ここ数年は明らかに過剰出店だ」と指摘。直近の19年11月の既存店売上高は32.8%減と大幅減。実に20カ月連続のマイナスだ。
ペッパーは業績不振を受けて19年11月には44店を閉店すると発表。さらに12月27日には、新規出店などで膨らんだ借入金の返済などで行使価格修正条項付きの新株予約権を発行し、69億円を調達すると発表した。SNS上では「いきなりブレーキ」「いきなりフケーキ(不景気)」「いきなり大量閉店」などの書き込みが続出。業績てこ入れを急ぐが、遅きに失した感もある。
いちよし経済研究所の鮫島氏は「既存店が減少に転じた段階で止血すべきだった。既存店の減少が続く中で、退店が最終的にどれくらいになるか分からないと投資家は買いにくいだろう」と指摘する。ペッパーの栄枯盛衰は、好機とみると積極出店によって業績拡大を目指すのが常の他の外食企業にも共通する。流行に頼りすぎず着実に業績を積み上げる姿勢こそが、長期的な株価の上昇につながるはずだ。
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