米中の貿易戦争や中国の景気減速が世界経済へと波及するなか、株式相場では先を見通しにくい環境が続いている。予想を立てづらいなかで証券会社の営業担当者はどのように情報収集や分析をして顧客に銘柄を提案しているのか。販売現場の生の声は個人投資家や市場関係者にとっても参考にするべき点が多い。証券会社で活躍する凄(すご)腕営業担当者に証券営業の戦略を聞いた。第1回は大和証券の糴(せり)川明憲さん。「世界中の資金の流れを注視してストーリー(仮説)を立て、顧客と共有することが大事」だと話す。
大和証券 糴川明憲氏
せりかわ・あきのり 2008年立命館大卒、大和証券入社、京都支店を経て14年9月に現在勤務する渋谷支店に。入社以来、個人や未上場法人向けのリテール営業を担当。現在は資産コンサルタント部の上席課長代理。これまで社長賞8回、月間賞44回の受賞歴を持つ。34歳。京都府出身
――どういう視点で銘柄を選び顧客に提案していますか。
「銘柄から探すというより様々な指数をみてどういったところにお金が流れているか、自身のスト―リー(仮説)を立ててそこから銘柄を選定してお客様に提案しています。株価の動きだけでなく、リスク度合いを測る米国のハイイールド債は買われているか、現物資産の金に資金が向かっていないか、先行指数となる銅やアルミなどの非鉄の商品指数はどうかなど、まず世界でどういう風にお金が流れているかを把握するのが重要だと思います」
「営業先で意見を聞きながら一緒にストーリーをつくり、共有しています。お客様と自分がみているストーリーに距離やギャップが生じないようにしています。見通しが外れてしまうこともありますが、そのときはなぜそうなったのか検証し、次に備えるようにしています」
ダウ輸送株指数で米消費動向を読む
――どういった指数や情報源を参考にしていますか。
「とりわけ米国債と原油価格、ダウなどの主要株価指数、米国のハイイールド債、ダウ輸送株指数は重要指数として注視しています。ダウ輸送株指数は米国の消費動向を敏感に反映する先行指数で毎日見られるので重宝しています。そのほかブラジルなど新興国の株価も含め約20の指数をQUICK端末で毎朝確認しています」
「情報は出社前や移動時間を活用し、新聞や週刊紙、スマートフォンのアプリやウェブサイトも含め5~10媒体くらいに目を通しています。多くの媒体を見ることで情報が立体的になります。幅広く話題を集めるのがリテールでは求められます」
資産運用以外のことでも思いついたらやる
――いま顧客が興味を持っている商品や分野にはどういうものがありますか。
「現在は多くの高齢者もスマートフォンを利用しアマゾンで買い物をする時代です。既に米国IT(情報技術)大手は身近な存在となっており、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コムのいわゆる『GAFA』などの個別株やファンドを買えないかという問い合わせが来るケースがかなり増えています。これまで遠いイメージだった米国株ですが、お客様の多くは米IT大手がここ20年程度でダイナミックに株価を上げ時価総額を増やしてきた事実を知っています」
「また単に資産を増やすというより、自身の本業や今後の生活に関わる深い部分に問題点を感じられる方が多くなったように思います。事業承継やM&A(合併・買収)などを含めたソリューションサービスに興味をもたれる方が増えています。実際、証券各社もコンサルティング営業に注力しており、当社も力を入れている分野です。一人一人のニーズの幹に当たる部分に対応できるよう提案に力を入れていきたいと思います」
――顧客への接し方で工夫していることはありますか。
「話に幅を持たせることは意識しています。単純に相場の想定の話だけでは退屈になってしまうので、世間話や天気、趣味の話もして時にはそれだけで帰ってしまうこともあります。訪問してその場で商品を購入してもらうというよりも、ストーリーを話して相場がこうなったらこうしましょうという前提条件だけをつくり、後で電話で提案することが多いです」
「大事な資産を預かっているので、可能な限り資産運用以外のところでも役に立ちたいと思っています。何かできないか思いついたことは何でもやるようにしています。若い頃、先輩をまねしてポエムを書いて渡したこともあります。センスがなくて響かなかったのが苦い思い出です」
証券会社の凄腕営業担当者というと、押しの強そうなイメージがあるが、糴川さんは口調も穏やかで物腰も柔らかく思わず長話してしまいそうなタイプだ。一方で毎朝20種類を超える指数の確認や情報収集はしっかりと欠かさない。顧客目線の真摯な対応に加え、日々の基本的な作業を高い次元でやり続ける「持続力」が顧客の信頼を勝ち取っているようだ。〔日経QUICKニュース(NQN)神宮佳江〕=随時掲載します