2018年11月に日産自動車(7201)のカルロス・ゴーン元会長が逮捕されたことをきっかけに、海外投資家の間で役員報酬や取締役会の構成などを含む日本企業のコーポレートガバナンス(企業統治)に関心が高まっている。日本の企業統治や外国人投資家の動向に詳しいジェフリーズ証券東京支店のズヘール・カーン調査部長に話を聞いた。
株価との相関関係より強く
――ゴーン氏が関連した一連の事件の影響で、海外投資家から日本企業に対する問い合わせはどのような変化がありましたか。
「ゴーン氏が逮捕される前から日産自の企業統治改革が進んでいないことは投資家の間ですでに話題だったため、それほど驚くことではなかった。ただ問題が発覚してから日本企業全体について、特に役員報酬に関連した問い合わせが増えた。経営陣の選任や再選のプロセスを問う声も多くなっている」
――役員報酬について海外投資家は具体的にどのような点に注目していますか。
「報酬の多い少ないに関わらず、株価や業績に連動した報酬制度を導入しているかどうかが注目だ。TOPIX500の採用銘柄について、株価連動型報酬の導入や独立社外取締役の採用、取締役会の顔ぶれが新鮮かどうかなどを調べ点数をつけてみたところ、点数が高い企業ほど株価のパフォーマンスが良かった。特に株式連動型報酬の導入については、役員が自社の株式を持つと業績を改善させようとする動機付けにつながるため、株価との相関関係がより強まる」
「業績連動型の報酬制度を採用する企業は、営業利益やEPS(1株利益)などといった重要業績評価指標(KPI)に基づいているのかどうか、投資家から開示を求める圧力が高まるだろう」
社外取締役、問題は「選び方」
――経営陣の選任に関して、日本では社外取締役に社長の知人や元官僚、学者らの起用が目立ちます。株式市場の間で、日本には社外取締役としての適任者が育っていないと指摘する声があります。
「その見方には反対だ。海外に進出している日本企業は非常に多く、日本人は海外事業の経営経験が豊富だからだ。問題は社外取締役の選び方だ。最高経営責任者(CEO)ら選ぶ側が、社外取締役の『経営者』としての役割を勘違いしている。つまり、社外取締役の候補者をあくまでも業務や業界に精通している『コンサルタント』と位置付ける傾向があり、長期的に先を見据え判断ができるのかどうか見極めようとしていない。社外取締役には、その業界に関連した知識や経験があるかどうかは関係ない」
「日本企業には『部族優先主義』のような傾向がある。外部出身者は会社への忠誠心が足りないのではないかと、あまりにも厳しく判断しすぎることも問題だ」
〔日経QUICKニュース(NQN) 聞き手は大石祥代〕
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