新型コロナウイルスの感染拡大リスクが再び強まっている。東京都は飲食店の営業時間短縮を求めるなど、再び自粛ムードが強まろうとしている。あり方の見直しを最も迫られているのが、「人が集まる」ことの象徴でもある冠婚葬祭だ。
■日経平均株価をアンダーパフォーム
特設サイト「QUICKテーマ株」でブライダル関連サービスと葬祭関連サービスの銘柄の時価総額上位10社を指数化して6月末比での値動きを比較すると、ブライダルは13.3%安、葬祭は2.6%安で、ともに日経平均株価をアンダーパフォームしている(図1)。
結婚式場を運営する企業では、挙式の延期や見送りなどの影響が生じることは想像に難くない。葬儀は必要不可欠な面もあるが、小規模化や墓や仏壇の購入などは先送りする動きが出る可能性がある。仏壇のはせがわ(8230)は2011年8月以来、およそ9年ぶりの安値を更新し、葬祭関連サイトを運営する鎌倉新書(6184)も年初来安値圏にある。同社は葬祭関連の企業からの広告掲載などで収入を得るが、関連企業の業況が悪化すれば広告宣伝費を絞り込むとの見方につながっているようだ。
■裾野が広い
こうした冠婚葬祭関連の銘柄は、実のところ裾野が広いことにも注意したい(図2)。
例えば結婚式や葬儀に欠かせないものの1つが花だ。こうした花を取り扱う企業でも、ビューティ花壇(3041、2部)、ユニバーサル園芸社(6061、ジャスダック)、大田花き(7555、ジャスダック)が上場している。
結婚式場だけに限らず、ホテルでもブライダル需要は大きい。帝国ホテル(9708、2部)や椿山荘を傘下に持つ藤田観光(9722)などは宿泊目的の顧客だけでなく、単価の大きい結婚式需要が落ち込むことは痛手だ。
婚礼では衣装や宝飾品なども付随する。婚礼衣装を手掛けるクラウディアホールディングス(3607)は新型コロナによる挙式・披露宴の延期やキャンセルで、2020年8月期の連結営業損益は一転、23億円の赤字となる見通しだ。主役だけではない、参列者も減れば礼服の需要も振るわない。青山商事(8219)の6月の既存店売上高は前年同月比34.8%減だった。在宅ワークの浸透に伴うスーツ離れもありそうだが、婚礼需要の落ち込みも背景にあったようだ。
■「新常態」
とはいえ、新型コロナが行動様式の見直しを迫り、冠婚葬祭のあり方が今後変わっていくようであれば、そこに投資の機会が生じやすいことも頭の隅に置いておくべきだろう。冠婚葬祭は生活の中で必須行事でもあるため、完全に市場が消滅するとは思えない。
第1に今後業況が厳しくなるようであれば、業界内での再編の動きが活発化する可能性がある。例えば式場、花や衣装など、独自分野に特化した企業同士であれば、市場全体が縮小する中で合併を目指す動きは出やすい。
第2に新たな需要の創出への取り組みだ。エスクリ(2196)は貸し会議室のティー・ケー・ピー(3479、マザーズ)と資本業務提携を発表。平日の式場を企業のイベントに活用するなど新たな展開を模索する。外部からの発想がテコ入れにつながる可能性もある。
第3に消費者のお金のかけ方の変化による新たな需要の創出だ。手元に残るものを重視するため、指輪など宝飾品や記念品は一点豪華主義になるかもしれない。ウエディングムービーなどを掛けるユーグラッド(日野市)が手掛けるオンラインでの結婚式「WEB婚」などが注目を集めるが、冠婚葬祭で記録に重きを置く動きが出るかもしれない。
アスカネット(2438、マザーズ)が新型コロナの影響が出る前の2月に実施した調査では、結婚式の写真撮影に10万円以上をかけたとの回答が20代で3割強、30代で2割強を占めた。また結婚式の記念として何をしたか、何をしたいかの質問には、「結婚式を挙げた」との回答が66.7%、「披露宴を行った」が56%と大多数ではあったものの、「特別な衣装を着て写真をプロに撮ってもらった」との回答も45.7%を占めた。
SNS(交流サイト)の活用が日常化している中で、若年層を中心に「映える(ばえる)」ことを重視する風潮は定着している感がある。「新常態」がもたらす冠婚葬祭へのお金のかけ方の変化にも注目だ。(QUICK Market Eyes 弓ちあき)
<金融用語>
アンダーパフォームとは
ある個別銘柄やファンドなどの一定期間の収益率がベンチマークを下回っていること。アンダーパフォーマンスとも呼ばれる。 これに対して、収益率がベンチマークを上回っていることをアウトパフォームまたはアウトパフォーマンスという。