【QUICK Market Eyes 大野弘貴、片平正二片平】米大統領選では民主党候補・バイデン氏の勝利がほぼ固まった。現職のトランプ氏がいまだに敗北を認めておらず今後の出方に不透明感が残るものの、マーケットとしては「バイデン政権」を前提に動き出す。今後の投資戦略についてまとめた。
■S&P500の20年末目標3600は十分に達成可能=エバコア
エバコアISIは11月8日付リポートで当面の市場見通しについて、米大統領選の結果は「おそらく何カ月にもわたって争われるだろうが、投資家とギャンブル市場はバイデン前副大統領と共和党による上院過半数獲得シナリオを強く望んでいる」と指摘した。
また、「新型コロナウイルスの感染拡大が投資家の主な懸念として選挙の不透明感に取って代わった」とも指摘。悪いニュースとして、米国およびほとんどの先進国で新規感染が増加したことで、世界全体の1日の新規感染者数が過去最高を更新。また、米国でも入院者数と死亡者数が増加傾向にある事、モビリティが減少し始めている点が挙げられた。一方、良いニュースとして、ワクチン開発が軌道に乗っていることから、大半の投資家が予想するよりもはるかに効果的なワクチンが完成する可能性がある点が挙げられている。
これらを踏まえエバコアは「この間における米国内総生産(GDP)が減速傾向にあるものの、その減速スピードは感染第1波と比べてはるかに遅く、労働需要と実質賃金の伸びは依然として強い。加えて、利益の伸びと将来予測は堅調に推移しており、予測の上方修正が継続している」と指摘し、「入院患者数の大幅な増加やワクチンに関する失望的なニュースがなければ、短期的にはリスク資産はより高い方向にバイアスが偏っている」との見方を示した。また、「債券利回りの上昇にもかかわらず、実質的に高い法人税率が予想されていないため、S&P500種指数の2020年目標3600は十分に達成範囲内にあるように見える」ともした。
■バイデン大統領と共和党が上院多数なら1兆ドルの財政刺激策か=ゴールドマン
3日に行われた米大統領選挙で民主党候補のジョー・バイデン前副大統領(77)の当選が確実となったと複数の米メディアが7日に伝えた。接戦州のペンシルベニア(選挙人20名)で当選確実の見通しとなり、バイデン氏は7日夜に地元のデラウェア州ウィルミントンで演説し、「私は分断ではなく、統合を追求する大統領になることを誓う」と勝利宣言した。トランプ陣営は訴訟を起こす方針だが、CNNテレビによるとメラニア夫人や娘婿のクシュナー大統領上級顧問がトランプ氏に敗北を認めるべきだと主張しているといい、混乱長期化を避ける上でトランプ氏の判断が待たれる。
ゴールドマン・サックスは7日付のリポートで「バイデン氏は大統領選挙の勝者となった。法的な問題と再集計は、いくらかの追加的な不確実性を残すかも知れないが、バイデン氏が306名の選挙人に値する州でリードしていることから、全体的な結果を変えるようには思われない」と指摘した。大統領選挙で多少の不確実性があったとしてもバイデン氏の勝利は揺るがないとしつつ、「上院の見通しはまだハッキリしていない。上院の主導権を握る残りの2議席は1月5日に予定されている決選投票にかけられる公算が大きい」とし、年明けに決着が持ち越されると指摘。
その上で、新型コロナウイルス(COVID-19)に伴う追加経済対策の協議に関しては「上院の支配が選挙前に考えられていたほど変化しそうにないことから、どちらの政党も通過を延期することで得るものは大きくない。第二に、今度のジョージアでの決選投票は、共和党の多数が財政救済の障害であるという認識を避けるために、上院共和党が合意に達することに一層熱心になるかもしれません。第三に、前述したように、一部の財政措置は支出法案とともに12月に成立する可能性が高く、政治的なトレードオフによってその時点でより広範な法案を成立させることが最も容易になるかもしれない」などと指摘。基本シナリオとして、バイデン大統領と上院で共和党が多数派を占めるとみつつ、「約1兆ドルの財政刺激策が行われるだろう。失業保険の受給資格の拡大と期間の延長、さらに週600ドルの給付の一部延長(週400ドルになると予想)が含まれることを見込んでいる」と予想した。
■日経平均株価は2万5000円が目途も、TOPIXの高値更新は見込み薄=みずほ証
みずほ証券は6日付リポートで米大統領選後の株高について、「重要イベント通過が好感されたのか、VIXが10月29日の40超から再び30割れに急低下した」と指摘し、「結局コロナ以降、米連邦準備理事会(FRB)の方が日銀よりバランスシートの拡大が大きく、過剰流動性なので、大統領選挙の結果にかかわらずドル安・株高傾向が続いているのかもしれない」との見方を示した。
一方で、2020年度中間決算は事前予想よりも悪くないが、「20年度通期予想はバリュエーションが切り下げるほど良い訳ではない」とし、円高傾向になっていることからも「日経平均が2万4000円を大きく上回る可能性は低い」とも指摘。「今回一旦2万4271円を抜けば、テクニカルには1991年6月の高値2万5000円が目途になろう。日経平均株価は強いが、東証株価指数(TOPIX)は1月高値からまだ5%低い水準にあるほか2018年1月高値からは14%も低い水準にあり、高値更新の目途は当面ないだろう」との見方も示されている。
<金融用語>
VIXとは
VIXとは、シカゴ・オプション取引所(CBOE)が、S&P500を対象とするオプション取引のボラティリティを元に算出、公表している指数で英語では「investor fear gauge」、別名Volatility Index(略称:VIX)と呼ばれているもの。 将来の投資家心理を示す数値として利用されており、一般的にVIXの数値が高いほど投資家が相場の先行きに不透明感を持っているとされている。 通常は、10から20の間で推移することが多いが、相場の先行きに大きな不安が生じた時には、この数値が大きく上昇するという傾向がある。