【日経QUICKニュース(NQN) 須永太一朗】不動産投資信託(REIT)が発行する債券(投資法人債)の市場が様変わりしている。国連の持続可能な開発目標に沿った事業に資金を充てる「SDGs債」としての発行が増え、全体の発行額も押し上げている。SDGsを経営の重要な課題と位置付ける動きがREIT業界でも見られる。商品設計に対する投資家の理解も進むが、今後は資金使途の多様化が焦点となる。
■発行体と投資家のアピール材料
QUICKなどの集計によると、2020年の投資法人債の発行額(予定を含む)は1518億円。その約7割がSDGs債だった。全体に占める割合は投資法人によるSDGs債の発行が始まった18年に2割、昨年は5割で、年を追うごとに上昇している。SDGs債の伸びが寄与し、全体の発行額も昨年から4%増え、2年ぶりの多さになった。
SDGs債は環境対策などを重視する姿勢を示すことができて、発行体と投資家双方にとってアピール材料となる。不動産はクリーンエネルギーの活用など環境への負荷を抑えた仕様にしやすく「SDGs債の発行はオフィス系や物流系REITを中心に先行している」(国内証券)。投資法人債は普通社債に比べて1銘柄当たりの発行規模は小さいことが多く、地域金融機関が主な投資家だ。
大東京信用組合(東京・港)は昨年春からSDGs債への投資を積極化し、これまでに約80億円を投じた。投資先には阪急阪神リート投資法人(8977)や野村不動産マスターファンド投資法人(3462)のグリーンボンドなど、REITのSDGs債も並ぶ。大信の金田真門理事は「環境対応となっているか、資金使途を最優先に確認し投資先を選んでいる」と話す。
■環境と社会課題解決=サスティナビリティボンド
現状はSDGs対応の投資法人債の多くがグリーンボンドだが、ここに来て裾野が広がりつつある。GLP投資法人(3281)は9月、環境対策と社会課題解決の特徴を併せ持つ「サステナビリティボンド」を発行し、50億円を調達した。横浜市の物流施設を取得した資金の借り換えに充てるが、同施設は災害発生時の地域住民の安全性確保などに力を注いでいる。
みずほ証券の香月康伸氏は「REIT業界でもサステナビリティボンドの発行が今後盛り上がりそう」とみる。足元ではインフラ系のREITが「グリーン・エクイティ」として新規の投資口(株式に相当)を発行する事例もみられる。
SDGsを重視する金融・資本市場の流れに乗って、投資法人債の全体の発行額も緩やかに増えるとの見方が多い。
<金融用語>
グリーンボンドとは
グリーンボンドとは、資本市場から温暖化対策や環境プロジェクトの資金を調達するために発行される債券である。 初期にはリスクが低く金利も低い国際開発金融機関のグリーンボンドが多かったが、最近では高リスクである代わりに金利が高い低格付けのグリーンボンドも発行されている。 欧州投資銀行(European Investment Bank: EIB)が、2007 年に発行した再生可能エネルギー・省エネルギー事業の資金調達に係る債券(Climate Awareness Bond: CAB)が、グリーンボンドの考え方の基になった。世界でのグリーンボンドの年間発行額はここ数年で急増しており、2016年の年間発行額は 810 億米ドル(前年のほぼ2倍)にのぼっている。 日本では、環境省がグリーンボンドを国内で普及させることを目的に、2017年に「グリーンボンドガイドライン」を策定した。(QUICK ESG研究所)