新型コロナウイルスの流行がはじまった1年前。全米のスーパーマーケットから生活必需品が消えた。ロサンゼルスではトイレットペーパーのほか、長期保存ができる缶詰やパスタ、ハンドサニタイザーや除菌ティッシュの商品棚が空っぽになった。ただ、ミネラルウォーターが品薄になることはなかった。
米国の東側半分、25近い州が先週、大寒波に見舞われた。停電が拡大し、交通機関が麻痺した。特に被害が大きかったのはテキサス州だ。水道管が破裂して天井から滝のように水が流れ落ちるキッチン、暖房が効かずシャンデリアにツララができたリビングルーム、商品棚が空っぽのスーパー。雪を溶かして飲料水をつくる写真や動画がソーシャル・メディアで拡散した。コロナ流行が抑制しないなか、大寒波でテキサス州のスーパーから食料の多くと、ミネラルウォーターが消えたと伝えられた。
CNNは21日現在もテキサス州の1400万人が飲料水を確保できていないと報道する。寒波で水道管が破裂し、水を浄化する装置が各地で破損したことが影響したとしている。バイデン大統領は非常事態を宣言し、水を求める長い車列をCNNが中継した。オースティン近郊に集中する半導体工場が停電と断水で相次いで休業を強いられたことが広く報じられた。
テキサス州は米国でエネルギーが最も豊富な州として知られる。そのテキサス州がなぜ深刻なエネルギー危機に陥ったのか。大寒波の影響を受けた全米の大半の地域が早期に復旧したのに、なぜテキサス州だけが対応できなかったのか。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、誤ったエネルギー政策が招いた政治の問題と社説で指摘した。テキサス州は風力発電に過度に依存し、電力網が他州より悪天候の影響を受けやすくなっていたという。
電力自由化の影響でテキサス州の多くの住民が高額の電気代請求を受け取ったとの報道も少なくない。需給関係で価格が変動するため安くなることもあるが、需給バランスが崩れると価格が急騰する。ワシントン・ポスト紙は、卸売価格が1万%以上、上昇し、1万7000ドル(約179万円)の請求書を受け取った住民がいると報道した。ニューヨーク・タイムズは、1万6752ドル(約176万円)の電気代をクレジットカードに課金され、貯金のほとんどを失ったサンアントニオの退役軍人を取り上げた。
米国の中央に位置するテキサス州には多くの大企業が本社を構える。州税が高いカリフォニア州から州法人所得税がないテキサス州に移転した企業も少なくない。最近では電気自動車メーカーのテスラがシリコンバレーから移転すると発表した。「テキサスモデル」と呼ばれる電力自由化には世界の自治体が注目した。ただ、暑さで知られるテキサス州が大寒波でつまずくことは誰も予想していなかった。
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Market Editors 松島 新(まつしま あらた)福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て2011年からマーケット・エディターズの編集長として米国ロサンゼルスを拠点に情報を発信