(初回公開日2021年8月6日15:00)
【QUICK Money World 辰巳 華世】株式市場で株価が上昇し利益が得やすいニュースに、株式公開買付け(TOB)があります。TOBが発表されるとその銘柄は注目を集めます。今回はTOBの基本的な説明からTOBの目的や種類、敵対的TOBと買収防衛策、TOBのメリット・デメリット、TOBに参加する方法、保有株がTOBされた場合どうするのかなどを分かりやすく解説します。
TOBとは
TOBとは「Take Over Bid」の略称で、日本語では株式公開買付けのことです。ティーオービーと呼ぶことが多いです。M&A(合併・買収)の手法の一つで、企業の経営権などを取得するために不特定多数の株主から株を買い集める際に利用されます。
あらかじめ買取価格や株数、期間を公開したうえで、市場を通さずに株式を買い取ります。株の買取をしたい側が、対象の株式を保有する株主に売却を促し、取引所外でそれらの株式の買い付けをします。市場で株式の買い付けをしない理由は、大量の株式を市場で買い集めようとすると、買い集めることによって株価が上昇してしまう可能性があるためです。そのため、あらかじめTOBを実施すると宣言した上で、取引所外で一定の価格で買い付けます。市場で株式を買い集めるよりも、一定の資金で多くの株式を買うことができます。
TOB実施のルール
金融商品取引法では、「5%ルール」や「3分の1ルール」といった具体的なルールでTOB実施を義務付けています。一つずつどういうルールか見ていきましょう。
・「5%ルール」
5%ルールは、市場外での株式買い付けで、株式買い付け後の株式保有割合が5%を超える場合は、TOBを実施しなければならないというものです。ただし、例外があります。5%を超える場合でも、60日間で10人以下から買い付ける場合はTOBの義務はありません。
ちなみにTOBに関する「5%ルール」の他に、株券等の大量保有の状況等に関する開示制度でも「5%ルール」という規則があります。正確には「大量保有報告制度」です。これは、上場企業の発行済株式数の5%を保有した株主は、保有した日から5営業日以内に内閣総理大臣宛ての「大量保有報告書」を管轄する財務局に提出しなくてはなりません。これは個人でも法人でも提出する必要があります。
・「3分の1ルール」
証券取引所内外いずれのケースでも、買付け後の株式の保有割合が3分の1を超えるとTOBの実施が義務付けられています。3分の1ルールは3つのケースがあります。
1. 証券取引所外の取引で60日間で10人以内からの株式の買い付けが3分の1を超える場合。
2.証券取引所の市場内でToSTNeT取引、J-NET取引などを通じて行われる立会外取引である「特定売買」での買い付けが3分の1を超える場合。
3.証券取引所内外を組み合わせて、3カ月間で10%超相当の買い付けを行い、そのうち証券取引所外または特定売買で5%超相当の株式取得をし、その結果、株式等所有割合が3分の1を超える場合。
ただし、企業グループで 3分の1超の議決権を所有する会社の株券等のグループ内での移動等、新株予約権の行使、兄弟会社等からの買い付けなどでは、3分の1ルールの免除が適用されます。
TOB価格について
TOBは金融商品取引法で定められた規則に従って行い不特定多数の株主に対して公平な売却機会を確保します。多くの株主からの売却を促すために、一般的にTOB価格は直近の株価よりプレミアム(上乗せ幅)を付けて高く設定されます。プレミアムは約30%〜50%です。2020年9月29日にNTTが発表したNTTドコモに対するTOBでは、TOB価格は3900円で9月28日終値(2775円)より約40.5%のプレミアムが付いていました。
※TOB発表後は、市場価格もTOB価格の近辺に張り付く
TOB価格には一定のプレミアムが付くことが一般的ですが、一方で市場価格より割安で取得する「ディスカウントTOB」もあります。市場価格より一定価格割り引いたTOB価格となるため、一般株主がほとんど応じず、特定の買い手から決まった量を買い付けやすくなります。
過去には2018年に三菱商事が三菱自動車株をTOBで買い付ける際、市場価格より10%程度下回る株価でTOBしました。三菱グループ内の保有分を取得しました。ディスカウントTOBは、企業の再編や株式の持ち合い解消などで活用されています。
TOBは買付条件が予め公表されるので、TOB価格がいくらなのかなど事前に詳細を確認する必要があります。TOBは発表されたら必ず成立するものではありません。買付条件を満たせなかった場合などTOBが不成立になったり、中止になったりすることもありますのでTOB実施中は、状況に注意を払う必要があります。
TOBの目的
TOBでは、主に上場会社の買収・企業合併・子会社化を実現するために経営の実権を握る目的で行われます。TOBを実施する企業は、TOBを通じて株を買い集め、相手企業に対する持株比率を上げていきます。
会社経営をする上で「持株比率」はとても重要です。持株比率は、発行済株式数に対して、その株主が保有する株式の割合のことです。会社法では、この比率に応じて会社経営に対してどれくらい力を持っているかが決められています。なので、会社経営者や株主にとってどれくらいの持株比率かはとても重要なのです。発行済み株式の持株比率に応じた権利では、
・33%(3分の1)超 を取得すれば、定款変更や事業譲渡、解散など重大な決定事項(株主総会における特別決議)を単独で否決できる
・50%(2分の1)超 を取得すれば、社長をはじめとする役員の選任、解任をおこなうことができる
・66%(3分の2)以上 を取得すれば、単独で重大な決定事項(会社の解散・合併など)を可決することができる
があります。持株比率が33%以上あれば、重大な決定事項を拒否できる権利が発生し、経営判断に関与することができます。
持ち株比率 | できること |
33%(3分の1)超 | 定款変更や事業譲渡、解散など重大な決定事項(株主総会における特別決議)を単独で否決できる |
50%(2分の1)超 | 取締役の選任・解任や、配当などの決定事項(株主総会における普通決議)を単独で可決できる |
66%(3分の2)以上 | 定款変更や事業譲渡、解散など重大な決定事項(株主総会における特別決議)を単独で可決できる |
TOBの種類――友好的か敵対的か
TOBには種類があります。友好的TOBと敵対的TOBの2種類です。友好的TOBとは、買収される企業が買収に同意しています。例えば先程の例のNTTによるNTTドコモへのTOBなどです。グループ企業の完全子会社化などは友好的TOBになります。
一方、敵対的TOBとは、買収される企業が買収に反対しています。事前通告なく、TOBの公表により買収の事実を知るなど買収される企業にとっては、不信感が強く反対するケースが多いと言われています。そのため買収される企業が買収防衛策などを取り、友好的TOBに比べると成功率が低いと言われています。最近では、外食大手のコロワイドが、定食チェーンの大戸屋ホールディングスに対する敵対的TOBを成功させ注目を集めました。
また、取得を目指す持株比率により、TOB後に上場廃止になるケースや、上場を維持するケースがあります。
敵対的TOBの買収防衛策とは
敵対的TOBを仕掛けられた企業は、TOBを阻止するために買収防衛策を取ります。買収防衛策にはさまざまな種類があります。その時々で使える買収防衛策を導入します。ここでいくつか有名な買収防衛策を紹介します。
2020年に大ヒットしたドラマ「半沢直樹」でも登場した買収防衛策に「ホワイト・ナイト」があります。ホワイト・ナイトを日本語にすると白馬の騎士です。敵対的企業からの買収を防ぐべく、友好的な第三者の企業を探します。TOBされそうな企業が友好的な第三者の企業からの資本を受け入れ、友好的な買収や合併をして、敵対的TOBを阻止する方法です。ドラマ「半沢直樹」の中では、ホワイト・ナイトとなるはずの「フォックス」社が実は裏で敵対的TOBを仕掛けた「電脳雑技集団」社と繋がっていたことが発覚し、この買収防衛策は中止されました。
自社だけで完結できる買収防衛策もあります。「ゴールデン・パラシュート」は、TOBを仕掛けられている企業の役員の退職金を高く設定し、買収時の価値を下げる方法です。一般的に、TOB成立後、TOBを仕掛けた企業は思い通りになる経営陣を就任させ、買収された企業の経営陣を解任させる場合が多いです。そこで、買収後、解任される可能性が高い経営陣は自らの退職金等を高額に設定し、買収後の現金流出を引き起こす可能性を作ることで、TOBを仕掛けた側の買収意欲を低下させることを狙います。
「パックマン・ディフェンス」という買収防衛策は、「目には目を歯には歯を」的な作戦で、買収を仕掛けられた企業が逆に買収を仕掛け返す方法です。日本の会社法で、株式を相互保有している場合、敵対的買収企業の株式を25%以上保有すると、敵対的企業は買収しようとした企業に関する議決権が失われて行使できないという法律があります。これを利用した作戦です。ただ、この作戦には、多額の資金が必要だったり、やり返された企業はパックマン・ディフェンスへの対応で疲弊したり、お互い体力勝負でリスクが高い防衛方法と言われています。
TOBのメリット・デメリット
TOBにはメリット・デメリットがあります。メリットとしては、TOBをする側が買収価格を決めて株式を買い付けることができる点です。事前に買取に必要な資金が算出できる点は魅力です。また、株式を一度に買い集めることができます。経営権取得に向け、一定数の株式を効率的に取得することができます。
一方、デメリットは、市場価格より高い値段で株を買い取る必要がある点です。多くの株主からの売却意欲を高めるには、一定程度のプレミアムを付ける必要があります。また、必ずしもTOBが成功するとは限らない点もデメリットです。特に敵対的TOBであれば、買収される企業が買収防衛策を打ち出し、買い付けに失敗することもあります。
TOBに参加するにはどうすればいいの?
TOBには公開買付代理人となる証券会社がいます。TOBに参加するには、対象銘柄の公開買付代理人である証券会社での口座開設が必要です。公開買付応募申込書など必要書類を請求した後、内容を確認し、銘柄の移管手続きや公開買付応募申込書の提出が必要です。
保有している株がTOBされたらどうする?上場廃止になったら?
保有している株がTOBされた場合は、3つの選択肢があります。
①TOBに応募する
TOBに応募すれば、TOBの買付価格で売却することができます。自分が取引する証券会社が公開買付代理人ではない場合、代理人である証券会社の口座に銘柄を移管する必要があります。また、買付株数に上限が設けられたりする場合もあるので、自分の株が買付けされるかどうかは結果がでるまでは分かりません。TOBに応募する際は、諸条件を確認する必要があります。
②市場で売却する
市場で売却することもできます。一般的にTOBが発表されると対象銘柄の株価はTOB価格近辺まで値上がりすることが多いです。なので、公開買付代理人が自分が利用している証券会社でなく新たに口座開設する手間などを考えると、TOB価格近辺で、市場で売却することも一つの方法です。
③保有し続ける
保有し続けることも可能です。ただ、TOB成立後に上場廃止となるケースでは、信託銀行で換金手続きが必要になったり、保有株式の強制的な買取(スクイーズアウト)がされることがあるため注意が必要です。これらの場合、他の株式取引との損益通算ができなくなったり、別途、確定申告が必要となりますのでご注意ください。また、上場廃止にならない場合、TOB成立後は株価が元の水準に戻ることがあります。
まとめ
TOBはM&Aの手法の一つで、企業の経営権などを取得するために不特定多数の株主から株を買い集める方法です。一般的にTOB価格は、市場価格よりプレミアムが付いた価格で設定されています。保有している株がTOBされた場合は、TOB条件の詳細や、買収先の企業の経営方針などを確認した上で、どうするか対応を考えましょう。
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