サービス業で出願された特許は、出願件数が少ないだけに明確に他社との差別化要素になる。一方で、特許が切れた時の反動は大きい。製薬会社と同様、サービス業にはパテントクリフが存在するのだ。
サービス業にとっての重要な特許をもつ企業はどこか、KKスコアを使って分析した。併せて特許出願トレンドをみて、今後の業績の方向性を予想した。
「賞味期限」は5年、特許切れの反動も
正林国際特許商標事務所
証券アナリスト=三浦 毅司
弁理士、鳥取大学客員教授、元特許庁審査第三、第四部長=後谷 陽一
第1章 ビジネス関連特許の出願は増加傾向
画期的であってもサービスのアイデアそのものは特許の対象にならない。一方、サービスを具体化するビジネス方法が情報通信技術を利用して実現されたものはビジネス関連発明として、特許の保護対象になる。昨今のサービスの多くは情報通信技術を使って実現されるので、こうした保護対象となるビジネス関連発明は着実に増加している。サービスは特許になるのだ。
1998 年(ステートストリートバンク事件)および 1999 年(アマゾンのワンクリック特許事件)に米国でビジネス関連特許の有効性を肯定する判決が出されたのを機に日本でもビジネス関連特許の必要性に対する認識が高まり、2000年には出願が急増した。当初は査定されて特許になるものが少なく、査定率は10%以下まで低下したが、その後、審査基準の浸透とともに査定率は大幅に改善し、現在では出願した70%近くが特許として認められている。また、出願件数も2011年をボトムに増加に転じた。
■出願した7割が特許として認められている
(特許庁データを元に正林国際特許商標事務所作成)
ビジネス関連発明の特許が認められたことで、今まで特許出願が難しかったサービス業の企業にも、自社の差別化されたサービスを特許で保護する道が開けた。今後、こうしたビジネス関連発明に係る特許出願は増加していくだろう。
第2章 サービス業では特に特許の重要性大
ジャスダック、東証マザーズ、JPX日経中小型200におけるサービス業223社のうち、カネカと神戸大学が開発したKKスコアを用いて重要度の高い特許を保有している順に並べた。トップはぐるなび(2440)。次いでアスカネット(2438)、メディネット(2370)、サイジニア(6031)、ファンコミュニケーションズ(2461)、トランスジェニック(2342)の順になった。
サービス業の特許の特徴は、件数が少ない分、企業にとっての特許の重要性が大きく、特許の出願が業績の改善につながる可能性が高いことだ。一方で、せっかく特許で差別化されたサービスによって向上した業績も、次の特許が続かなければその後じり貧になる。保有している特許の質に加え、出願トレンドを理解することが大切だ。
下の図では、KKスコアランキングとあわせて特許出願トレンドを示した。このトレンドは過去20年のスパンの中での直近5年間の出願の動向をみるものだ。KKスコアランキング上位で特許出願トレンドも良好な企業は今後の業績拡大が期待でき、逆に特許出願トレンドがよくない企業は、パテントクリフの状態になり業績が悪化する懸念があるといえる。例えばパナソニックの国際特許出願のトレンドは、おおむね業績に一致している。車載向け電池の需要が伸びて業績が伸長し、研究開発費が増えれば電池に係る特許出願にさらに拍車がかかる。特許の伸びが業績につながる期待が持てるというわけだ。
■ぐるなびやアスカネットが上位に
- 特許出願トレンド=(直近5年間の出願件数ー過去20年の出願件数÷4)÷過去20年の出願件数。+25%以上を 「⇑」、0%以上+25%未満を「⇗」 、-25%以上0%未満を「⇘」 と表示した
- (正林国際特許商標事務所)
第3章 業績の好不調を分けるのは
●ぐるなびーーKKスコア1位、特許出願トレンド ⇑
特許出願状況と業績を比較すると、おおむね特許出願のトレンドが5年後に業績に反映している。現在の業績不振は、特許の観点からは2014年頃の出願件数の落ち込みに対応しとものと見ることができる。ぐるなびはその後、特許出願を増やし、2017年と2018年には2012年の実績を上回る実績を残している。
特許の内容も高度化が見られ、他社をけん制する特許を戦略的に出願するようになってきている。今後のサービスの差別化につながるものと期待できる。
特許出願件数が5年後の営業利益に反映される
●アスカネットーーKKスコア2位、特許出願トレンド ⇗
アスカネットは、従来の写真プリントを印刷・写真集に置き換えるパーソナルパブリッシングサービス事業と、葬儀に使用する遺影写真の合成・加工を行い、配信するメモリアルデザインサービスを展開している。
特許は主に、第3のエアリアルイメージング事業に関するもので、特に空中に映像を結像する技術に係る特許に対する評価が高い。現在の安定した2事業に加え、こうした新しい技術が業績に反映するであろう2020年以降に向けての業績拡大が期待されるところだ。
2020年以降の営業利益拡大に期待
●メディネットーーKKスコア3位、特許出願トレンド ⇘
メディネットは、免疫治療に関する重要度の高い特許を2007年に集中して出願したが、その後の出願が進んでいない。また評価の高い特許は、細胞培養装置やたんぱく質の修飾剤など、メディネットが展開する免疫治療の本筋からは離れた分野の特許になっている。
その結果、業績も低迷している。業績につながる特許がまだ出てきていない現状を考えると、業績の低迷は続く可能性がある。
業績好転につながる特許が出てきていない
●ファンコミュニケーションーーKKスコア5位、特許出願トレンド ⇘
ファンコミュニケーションの重要な特許はこの10年では一つだけ、2011年に出願した、ネットワーク広告管理システム及びネットワーク広告管理システム用プログラムに係る特許だ。この特許の評価が高く、特許出願件数は少ないもののランキングで5位に入った。2011年に出願した特許がサービスの差別化につながり、業績も2014年から4年間、好調さを維持した。
問題はこの先だ。サービス業の特許の賞味期限は5年を過ぎると多くは劣化を始める。ここにきて有力な特許を出願できていないことからみて、今後は業績が悪化してゆく可能性がある。
一方で、たった一つの特許が大きな逆転につながる可能性もある。こうした企業の場合、特許出願を注意深くみて、今後の業績を占う必要がある。
「次」の有力案件に注目
※4社のグラフデータはいずれも会社資料と正林国際特許商標事務所
(2019年6月19日)
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