不動産にもIT化の波が訪れ、「不動産テック」という言葉が聞かれるようになって久しい。ただ、いくらIT化を進めても、特許による保護ができなければ、いずれ他社に追い付かれてその優位性を維持することができない。
新興・営業重視の企業が多い不動産業では特許出願件数が低位にとどまっている。一方で、重要な特許を出願する不動産業者は安定した高収益性を示しており、将来に向けての布石も着々と打っている。不動産業において重要な特許を保有している企業をはどこか、分析した。
IT化や耐震構造技術、将来の新サービスへ布石
正林国際特許商標事務所
証券アナリスト=三浦 毅司
第1章 知財権利化が遅れ気味の業界
1.出願実績ありは4割以下
日本の株式市場に上場する不動産業138社(7月1日現在)にあって、特許出願実績のある企業は53社と全体の4割以下にとどまっている。また特許の中身も建築技術や建材に係るものが多く、先進的な不動産テックについての特許を出願している企業はさほど多くない。全体的にビジネス関連発明の特許出願が増加するなか、不動産業は知財権利化が遅れている業界と言える。
■不動産業の特許出願動向
(SRパートナーズを元に正林国際特許商標事務所作成)
2.工法や建材が主流、ビジネス関連特許は少数
保有する特許の重要性に注目し、カネカと神戸大学が開発した「KKスコア」を用いてランキングしたのが下図だ。住友不動産、三菱地所、三井不動産の大手3社をおさえてパーク24、スターツコーポレーションが1位、2位に入った。パーク24は先進的コインパーキングシステム、スターツは耐震構造の特許が評価された。なお、住友不動産は特許出願に積極的だが、三菱地所、三井不動産の特許出願はそれほど多くない。
■不動産業のKKスコアランキング
(正林国際特許商標事務所作成)
不動産業者が出願した特許の多くは、工法、建材に係るもので、ビジネス関連発明に係るものは少ない。ビジネス関連発明で高評価となったTOP2は以下の特許。いずれも現時点で企業が推しているものではなく、将来のサービス展開に備えて特許を出願したものだ。
①建物内サービスシステム(特許4764952、特許権者プロパティエージェント)
居住者が、室内にある端末を操作することにより、食料品や生活雑貨の購入、宅配便やクリーニングの注文や受け取りなどを行うことができるシステム。商品や受け取り品は自宅まで搬送されるので、外出の手間や、業者とのやり取りの手間を省くことができる。
②駐車場利用管理システム、利用制御装置、制御方法、及びプログラム(特許5627423、特許権者パーク24他)
複数の駐車場を利用したい利用者に対し、最初の駐車場で駐車料金を精算する際、その後で利用する駐車場の利用料金もまとめて精算するシステム。以降に利用する駐車場については混雑状況に応じて適切な駐車場が案内される。
第2章 個別企業分析
●パーク24(4666) 駐車場運営サービスで高い参入障壁
パーク24はコインパーキング運営の大手であるが、駐車場運営に係るIT化に積極的に取り組んでおり、これらシステムに係る特許出願が多い。コインパーキングからカーシェアなどに事業を展開し、業績も好調だ。特許出願状況を見ると、現在の運営システムにとどまらず、将来のサービス展開を踏まえて前広に特許出願を行っている。将来、コインパーキングに関するサービスの拡大において、他社にとって大きな障壁を築いていると評価できる。
パーク24の業績推移
●スターツコーポレーション(8850) 物件の差別化で訴求力高く
スターツコーポレーションは不動産の分譲・賃貸を手掛ける大手であるが、建物の免震構造に係る特許が高く評価され、上位に入った。業績も好調である。不動産の分譲・賃貸はどうしても物件そのものの価値によるところが大きいが、自社物件の差別化について耐震など顧客に分かりやすく訴求できる分野でエッジを効かせる戦略が奏功している面も評価できよう。
スターツコーポレーションの業績推移
●プロパティエージェント(3464) 入居者の利便性向上に軸
プロパティエージェントは主にマンション分譲、賃貸物件管理を行っており、高成長を続けている。特許の出願は主に入居者の利便性向上に関する発明が多いが、こうした発明体制を母体に、2019年3月、新規事業開発チームを立ち上げた。通信環境の変化やIoTの進化に対応した事業を展開するとしており、IT面での相対的な優位性が見込まれる。
プロパティエージェントの業績推移
(2019年7月18日)
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