NQN香港=柘植康文、写真=Chesnot/Getty Images
中国電子商取引最大手のアリババ集団は11日、大規模ネット通販セール「独身の日」を始めた。取扱高は13時時点で、1900億元(約2兆9600億円)を突破している。中国景気の減速は懸念材料だが、事前の調査では消費者の購買意欲は衰えておらず、今年の取扱高は4兆円を超えるとの予想も出ている。過去最高だった2018年の2135億元(約3兆3000億円)を大きく上回り、香港への株式重複上場に向けて勢いをつけられるのかに注目が集まる。
11回目の11月11日、5億人以上で4兆円超へ
アリババによる独身の日セールは今回が11回目で、20万以上のブランドが参加する。会社側は昨年より1億人多い5億人以上の消費者の参加を見込んでいる。上海市でのカウントダウン行事には、世界的な人気歌手のテイラー・スウィフトさんを招いた。
米証券ジェフリーズは、19年のアリババの取扱高は前年比24%増の2650億元(約4兆1000億円)になると予想する。同社のトーマス・チョン氏は「地方都市への浸透を図るのと同時に、新たな消費やビジネスの形態が重要になる」と指摘する。
アリババは消費促進のため、最新技術を利用したオンラインとオフラインの融合を強化している。例えば、消費者はリップスティックやアイシャドーなどを仮想現実で試すことが可能だ。さらに、SNS(交流サイト)で影響力を持つインフルエンサー2000人以上を動員し、動画配信などを通じて消費者の取り込みを図る。
米ブランドに逆風、中国製に恩恵も
米コンサルティング会社、アリックス・パートナーズが2000人超を対象に実施した調査によると、北京や上海などの一線都市と二級都市の消費者は1人当たり購買金額を前年比で54%増やすと予想されている。1万元(約16万円)以上を消費するとの回答は3倍に増えた。
アリックスでマネージング・ディレクターを務めるマイケル・マックール氏は「消費者は流行遅れの商品を格安価格で買うのではなく、質の高い商品を割安に手に入れたり、楽しい経験をしたりすることを求めている」と語る。
今年は米中摩擦の長期化により、一部の消費者が米国製品の購入を避けるとの観測も出ている。中国通信機器の華為技術(ファーウェイ)は今春の米制裁後に中国の消費者の間で人気が高まり、スマートフォンの市場シェアを大きく伸ばした。独身の日セールでも米中対立がアップルやナイキなどの米国勢にとって逆風となり、地元の中国メーカーが販売を伸ばす可能性がある。
本土マネー誘引、最大で150億ドル調達
アリババは香港取引所への株式の重複上場を計画しており、独身の日セール後に上場手続きを本格化して早ければ11月末にも上場するとの報道が出ている。今回のセールの売れ行きは、最大150億米ドル(約1兆6300億円)の新たな資金調達に向けて投資家に成長性をアピールする意味合いも持っている。東洋証券亜洲の龔(龍の下に共)静傑・研究主管は「高成長を維持するアリババ株を購入したい中国本土などの投資家は多い」としたうえで、「米中摩擦が続くなかで香港上場は会社側にとっても重要」と話す。
アリババは反政府デモの激化を受けて今秋に香港上場をいったん先送りしたとされる。香港では11日も独身の日に合わせて通勤や物流を妨害する活動が起きており、警察がデモ隊に実弾3発を発砲した。アリババにとってはセールの売れ行きに加えて、香港情勢も気がかりだ。
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