日経QUICKニュース(NQN)=井口耕佑
21日の東京市場は、米中貿易交渉や香港情勢への懸念から投資家心理が弱気に傾き、株安と債券高(金利低下)が進んだ。リスクオフ(回避)の動きが強まったにもかかわらず、安全通貨とされる円の上値が奇妙なほど重かった。米中交渉の破談という「大穴」に賭ける投資家が姿を消しているようだ。
21日午前の円の対ドル相場の高値は1ドル=108円28銭近辺で、20日17時時点と比べた上昇幅は15銭ほどにとどまった。円は小幅ながら下げる場面もあった。一方、株式市場ではアジア株安なども波及して日経平均株価は一時400円超下げた。
日経平均と円の過去の値動きを比べると、日経平均が300円超下落した日は、円の対ドル相場も1円ほど上昇した日が目立つ。例えば、貿易を巡る報復合戦で米中間の摩擦が激化するとの懸念から8月26日は日経平均が449円下げ、円は91銭ほど上昇した。日経平均が366円安となった8月5日は97銭ほど円高・ドル安になった。
みずほ証券の鈴木健吾氏は「株は売ればいったんリスクから距離をとれるが、為替は究極的には円とドルのリスクの交換でしかない」と指摘。「きょうの材料では、米中協議の破談には賭けられない」と分析する。米中対立を巡っては、高官発言などをきっかけに市場の空気が変わりやすい。第1段階の合意も「年内は難しい」との観測が広がるが、現時点で合意にこぎ着ける可能性を完全に排除するほどの材料は見当たらない。
実需勢の動きも一方的な円高を阻んでいる。岡三証券の嶋野徹氏は「国内生命保険などの円売り需要が、他の投資家の円買いをけん制している」と解説する。例えば、かんぽ生命や日本生命、住友生命は2019年度下期(19年10月~20年3月期)に為替ヘッジなしの外債投資を増やす方針を示している。
アサヒグループホールディングスやDICなど、海外企業の買収に動く企業が増えているのも無視できない。M&A(合併・買収)資金に絡む円売りは、巻き戻しの動きが出にくいとされる。証券投資とあわせ、対外的な直接投資も円の上値を抑えている。
懸念される米中関係の悪化が現実のものとなれば、運用リスクを回避する目的の円買いが急加速する可能性は残る。ただ今のところ「米中の交渉が難航するのは皆、分かっている」(みずほ証券の鈴木氏)。最終的には合意に至るとの期待が根強く、米中関係を過度に悲観した動きは乏しい。相場の方向性を変える動きは、当分見込めそうにない。
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