QUICKコメントチーム=弓ちあき
2019年も残すところわずか。日本株は米中の貿易を巡るさや当てに一喜一憂し、自動車産業も振るわない中でいまひとつ高揚感に欠けるが、「政策に売りなし」の言葉の通り金融緩和に支えられながら大納会での高値引けへの期待の声も聞こえてきた。
東証1部銘柄の過去1年の騰落率をみると、上昇の首位はIR(=Investor Relations、企業の投資家向け広報活動)を手掛けるアイ・アールジャパンホールディングス(IRJHD、6035)だった。10倍(テンバガー)とまではいかないにしても、株価は4倍超に上昇。上昇の上位20銘柄をみても、3倍、2倍に成長した銘柄がゴロゴロしている点は心強い。
騰落率は2018年12月28日終値と20日終値の比較。ベータ値は対TOPIXで180日、営業利益率は直近予想ベース(会社または日経予想で※は国際会計基準、カバレッジは20日時点のQUICKコンセンサス対象社数)
こうした銘柄の業種は、半導体製造装置のレーザーテック(6920)、アドバンテスト(6857)が次世代通信規格「5G」やAI(人工知能)、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」の拡大を背景に並ぶことを除けば、上位20社を見る限りバラバラな印象だ。市場との連動性を示すベータ値も1を切る銘柄が多く、相場全体の上昇に助けられた印象はない。19年は外部環境が読みにくいなかで銘柄の「個性」が光る1年だったと言えそうだ。
上昇の上位をみると、アナリストのカバレッジが少ない企業が目立つことにも着目しておきたい。東証1部でアナリストのカバレッジが6社以上確認できるものは全体の17%に過ぎない。その個性や潜在力が発見されずに眠っている企業はまだ多く残っていそうだ。
ガバナンス強化の流れを象徴
上昇率が首位だったIRJHDの20年3月期予想ベースの売上高営業利益率は40%と際立って高く、前期比でも10ポイントあまりの上昇を見込む。
高い収益性を支えているのは専門性だ。IR支援を手掛けるが、同社が強みとするのが株主判明調査を軸とした株主と企業との対話に関連するSR(シェアホルダー・リレーションズ)業務。機関投資家が保有する株式は名簿上のカストディアン(保有機関)しか出ないため、実質的な株主が一見して分からない場合が多い。そのため、議決権を行使する株主を明らかにする必要がある。
地道な作業になるが、これまでの機関投資家やファンドの意思決定者の把握といった調査・分析データの蓄積が高い参入障壁になっている。スチュワードシップ・コード(機関投資家の行動指針)の導入で機関投資家がより密に企業との対話や慎重な議決権行使を求められる風潮が年々高まっていることもニーズを高める一因になっている。
日本で活動するアクティビスト(物言う株主)の数は増えている。IRJHDではアクティビストファンドの投資行動の分析を通じ、資本政策上のリスク点検や自社株買いなどのシミュレーションといったサービスにも展開を広げ、企業の危機意識の高まりを背景に具体的な解決案の提示に踏み込んだ新しい需要を取り込んでいる。金融機関の系列ではない独立した専業であることも、公平性や事業展開の機動力につながっていると言えそうだ。
19年の日本市場では、敵対的TOB(株式公開買い付け)や委任状争奪戦(プロキシーファイト)の事例も散見され、議決権行使による意思決定の重要性そのものも高くなっている。金融庁のスチュワードシップ・コードの改定案ではサステナビリティー(持続可能性)を考慮することも盛り込まれており、企業からのニーズには一段と幅が増しそうな気配だ。IRJHDの19年の躍進は日本の企業統治の改善に向けた流れと表裏にあり、中長期でみたらまだ助走に過ぎないかもしれない。
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