日経QUICKニュース(NQN)=松下隆介
米中対立の激化を恐れ、警戒モードを緩めない外国為替市場。一段の円高に身構える市場参加者は少なくないが、逆張り的に円安トレンドへのシフトを予想する声もじわり出始めている。理由は2つ。中国での信用膨張と、銅価格の反転期待だ。
■「短期投資家は日本株市場に足を踏み入れるべき」
「短期投資家は日本株市場に足を踏み入れるべきだ」。BCAリサーチは12日、「『ニッケイ』に日は昇るのか」と題したリポートでこう指摘した。同社は2019年、投資期間が比較的短い投資家に対しほぼ一貫して日本株をベンチマークよりも低い配分にする「アンダーウエート」を推奨してきたが、ここにきて評価を変え始めている。
日本株の買いを推奨する理由の一つは、ほかの国の株価と投資指標面で比べた割安さ。12カ月先の予想1株あたり利益(EPS)をもとにした日本株のPER(株価収益率)は14倍ほど。米国(20倍)や欧州(15倍)と比べて低い。もう一つは、中国における「クレジット・インパルス」の上昇だ。これは民間向け信用供与の度合いを示す値で、中国向け事業を手掛ける企業の収益改善が期待できる。
■クレジット・インパルス
クレジット・インパルスは、名目国内総生産(GDP)に対する与信額が過去と比べてどう変化したかを示す。値が高いほど、民間への資金供給が増えていることを示す。この指数は、2月までは前年同月比横ばい近辺で推移していたが、3月には2017年2月以来の水準まで上昇。市場推計では、4月は一段と加速しているようだ。
5月22日に開幕する中国の全国人民代表大会(国会に相当)では、インフラ投資などを目的とした地方政府特別債券の発行増などが決まる見通しだ。市場では、19年比で2倍の4兆元前後の発行を見込む声が多い。19年の名目GDPの4%ほどだ。07年以来、13年ぶりに特別国債も発行する。信用の膨張は一段と進む可能性が高い。
重要なのは、クレジット・インパルスが購買担当者景気指数(PMI)や株価などに6~12カ月ほど先行することだ。クレジット・インパルスの上昇時期からはじくと、早ければ夏ごろに与信拡大の効果があらわれてくる。「今夏の生産活動の本格回復は米国債の利回りなどの上昇圧力につながる」(BCAのストラテジスト、マチュー・サバリー氏)。「リスクオン」を背景とした金利上昇の動きが強まれば、「低リスク通貨」とされる円は売り圧力が強まりやすい。
■銅の価格は上昇傾向
世界景気を診断する「ドクター・カッパー」こと銅の価格は、一進一退となりながら上昇傾向をたどる。銅の価格を安全資産の代名詞、金(ゴールド)で割った比率をみると、いっそう市場参加者の景況感を映しやすい。この比率は4月14日を底に下値を切り上げ続けている。そして「銅/金レシオ」は、米長期金利と連動しやすい。
米国株式市場では銅の上場投資信託(ETF)からの資金流出が4月下旬にピークを過ぎ、足元では流入超だ。中国ではインフラ投資の拡大に伴い銅の需要が持ち直す可能性が高く、先高観を背景として物色が向かっている可能性がある。実際、「アジアの倉庫を中心にロンドン金属取引所(LME)の銅在庫が減少し続けている」(オランダの金融大手ING)との見方もある。
相場を大きく動かす商品投資顧問(CTA)は、過去と比べ大幅な銅売り、金買いに傾いているもよう。銅需給の改善をきっかけに、いつ巻き戻しに動いても不思議でない。銅価格の本格反発に伴って「銅/金レシオ」が上昇すれば、歩調を合わせて米長期金利が上がり、円が売られる展開が想定される。
トランプ米大統領が中国に対して強硬姿勢を強めるなか、市場はトランプ発言に一喜一憂せざるをえない。新型コロナの「第2波」への警戒感もあり、円高を見込む声はなお主流派だ。ただ、慎重姿勢の市場参加者をよそに、そろりと次のステージに目を向ける動きがあることは見逃せないだろう。
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