海外投資家の間で日本株の存在感が薄れている。新型コロナウイルスの感染拡大で景気が冷え込むなか、各国政府や中央銀行が打ち出した財政・金融政策による緩和マネーが株価を押し上げた。だがその多くが短期筋の資金とされ、中長期勢が本腰を入れて買う動きに乏しい。2000年代に誕生した若い上場企業が十分に成長していないことが背景にある。
■日本株への信頼度は低下
「近年、世界をけん引する銘柄の少ない日本株への信頼度は海外勢の間で低下している」。日本株に詳しいある外資系証券の幹部は話す。
QUICKのデータによると、東証1部上場企業(外国銘柄を除く)のうち、2000年以降に設立された「ミレニアル企業」で時価総額が1兆円を超えているのは、事業再編などで誕生した会社を除けば2社にとどまる。2日に初めて時価総額が3兆円を超えた医療情報大手のエムスリー(2413、29日時点で3兆778億円)と、工具通販大手のMonotaRO(3064、同1兆939億円)だ。
両社はコロナ下での躍進がめざましい。ソニーグループのベンチャーとして00年に創業したエムスリーは医師と医薬情報担当者(MR)をつなぐ主力の医療情報サイトが堅調だ。モノタロウは足元で個人の電子商取引(EC)利用を取り込む。だが、04年設立で時価総額が65兆円を超えた米フェイスブックをはじめ、世界をけん引する数多くの若い企業が米国で生まれ、グローバルな投資家のマネーをひき付けていることを考えると物足りなさもある。
■企業の新陳代謝進まず、海外勢離れ
要因について、UBSウェルス・マネジメントの青木大樹・日本地域最高投資責任者は「今回のコロナ下でもそうだったように、日本は雇用維持や企業存続に向けた支援を積極的に打ち出している一方、企業のイノベーションや成長分野での雇用創出につながる施策は不十分で、企業の新陳代謝が進んでいない」と分析する。
経済産業省の資料によると、売上高上位500社から多角化度や海外比率の高さで絞り込んだ企業群で調べたところ、売上高営業利益率が10%未満の企業の比率は、日本は91%だ。これに対し米国は28%、欧州も66%。さらに、米国企業は企業の設立年数にかかわらず利益率が一定水準を保っている一方、日本企業は設立からおよそ10年で利益成長がピークを迎え、設立年が古くなるほど、利益率が低下する傾向にあるという。
岡三証券の松本史雄チーフストラテジストは「日本は大企業のしがらみが多く、イノベーションの動き自体も社内にとじ込められてしまい、枠組みを突き破り成長する企業が生まれにくい」と話す。日本固有の買い材料が見当たらない今、海外投資家の問い合わせも減っているという。
投資部門別株式売買動向(東京・名古屋2市場、1部、2部と新興企業向け市場の合計)をみると、委託売買代金に占める海外投資家の比率は直近の6月第3週時点で69.4%と、前年同期(72.4%)に比べ3.0ポイント低下した。市場では「過去、危機の後にその先の社会をリードする企業が多く生まれたことを踏まえれば、コロナ禍が次のけん引役企業を生み出すきっかけになり得る」(外資系証券)との声がある。未曽有の感染危機で新たなイノベーションを生み出せるのか。日本の「ミレニアル企業」が海外勢のマネーをひき付けられるか、今が正念場かもしれない。〔日経QUICKニュース(NQN)末藤加恵〕