テレワークの定着で紳士服業界が苦境に立たされている。新型コロナウイルスの感染拡大を受けた働き方の変化で、スーツの需要は減るばかり。在庫処分セールなどで価格にも下落圧力がかかる。株式市場では、このまま薄利多売を続けていてはコロナ禍を受けた新常態(ニューノーマル)に対応できないとの懸念が強まっている。
■紳士服の需要減少は深刻
総務省が7月21日発表した6月の全国消費者物価指数(CPI)は生鮮食品を除く総合指数が前年同月比で横ばいだった。5月まで2カ月連続で下落したものの、6月は石油製品などエネルギー関連価格の下落が和らいだ。
統計を詳細にみると、品目ごとに騰落の差が目立つ。価格が上昇したのはデスクトップ型パソコン(21.2%)やプリンター(27.5%)。下落したのは紳士服(春夏物・普通品)で7.8%、男子用ズボン(春夏物)も3.4%の下落だ。
特に紳士服の需要減少は深刻だ。帝国データバンクが17日にまとめたアパレル関連上場企業24社を対象とした月次売上高動向調査(6月分、前年同月比、全店ベース)によると青山商事(8219)が34.3%減、コナカ(7494)が31.0%減、はるやまホールディングス(7416)が19.9%減など、紳士服関連の落ち込みが目立った。作業服大手でアウトドア衣料なども扱うワークマン(7564)や、低価格商品に強みを持つしまむら(8227)などが2桁増になったのと対照的だ。
■値引き販売は一定の効果
価格戦略の違いなど紳士服各社が対応に苦慮している様子もうかがえる。AOKIホールディングス(8214)は「感染症拡大を受けて紳士服を半額にするなど、緊急在庫処分セールを実施した」(IR広報室担当者)。帝国データバンクの月次調査ではAOKIHDの売上高は8.6%減と紳士服関連では減少率が比較的小幅にとどまり、値引き販売は一定の効果があったようだ。他方、青山商事は「2019年10月の商品価格改定で、最初から割引価格を表示している」(総合企画部担当者)と、最近は目立った販売促進セールは実施しなかったと説明する。
テレワークは感染拡大を受けた一過性のものではなく、働き方改革の一環として多くの企業で定着しつつある。スーツなど紳士服の市場が成長するとは考えにくく、「ただ安売りするばかりでは需要創出は限界がある」(SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミスト)。AOKIHDは女性向け商品やオーダースーツの販売を強化するほか、洗えるマスクなど新たな生活様式をにらんだ商品の取り扱いに動き始めている。〔日経QUICKニュース(NQN)大貫瞬治〕
<金融用語>
消費者物価指数(CPI)とは
総務省(省庁再編以前:総務庁)が毎月発表する統計で、「東京都区分」と「全国」の2種類がある。すべての商品を総合した「総合指数」のほか、物価変動の大きい生鮮食品を除いた「生鮮食品除く総合指数」も発表される。 商品の販売には卸売と小売の区別がある。消費者に対しての販売を小売という。スーパーや商店で買い物をするとき、小売商から小売りされているといえる。この段階での価格を指数化したものが「消費者物価指数」である。 「消費者物価指数」は、家計でよく消費するもの、長期間値段を調査できるものなどいくつかの条件をもとに、500品目以上の値段を集計して算出される。タクシー代やクリーニング代といったサービスの料金も含まれる。 なお、元本が全国消費者物価指数(CPI)に連動して増減し、金利は利払い時の想定元金額に応じて支払われる国債のことを物価連動国債という。