米共和党の上院トップ、マコネル院内総務が7月27日に1兆ドル規模の追加の新型コロナウイルス対策法案(HEAL法案、健康・経済支援・免責・学校法案)を提示した。追加経済対策として5月15日にHEROES法案(新型コロナウイルス追加対策法案)を下院で可決している米民主党とは、3兆ドルとする規模や内容で隔たりがあり、今後、追加経済対策の成立を目指して共和党と民主党が協議を開始する。
■夏季休会前に合意の場合、1兆ドル規模
野村証券は28日付リポートで、共和党・民主党とも、7月24日に終了した家計向け家賃補助措置、8月8日の申し込みが締め切りの給与保護プログラム(PPP)の延長で合意しやすいとみられるが、「失業保険給付の600ドル(週給)加算措置(7月31日が終了期限)について、見解に大きな隔たりがある」と指摘。民主党は2021年1月までの延長を求めている一方で、共和党は600ドルの加算措置によって失業保険の給付額が、 前職の給与を上回っているケースが多く、再就職を阻んでいるとして、 HEAL法案で、8・9月加算分を200ドル(週給)に縮小、10~12月トータルの給付額を前職の給与の70%とする形で縮小を求めている。
このため、民主党が失業保険給付の加算措置の期限切れを避けるために、夏季休会前(下院が7月31日まで、上院は8月7日まで)の合意を優先させる場合、共和党・民主党で意見の相違のない政策を中心にとりまとめ、規模議会共和党の主張する1兆ドルに近いものになると見込まれ、「規模は最低限のものとなり、株式市場の期待を満たすものにならないであろうが、債券市場にとって、米国の財政赤字拡大懸念を抑制することになろう」との見方を示した。
また、民主党が、失業保険給付の加算措置の期限切れよりも、加算措置の縮小を避ける方針を採る場合には、「共和党との協議が長引き、夏季休会前の追加対策の成立困難」と指摘。3月のCARES法のとりまとめの時のように、ムニューシン財務長官やメドウズ首席大統領補佐官らホワイトハウス側が、共和党と民主党の間を取り持つ場合に、双方の政策を盛り込む形で妥協し、規模がHEAL法案の1兆ドルを大きく上回ることも考えられるが、議会共和党に、ムニューシン氏メドウズ氏が、民主党に譲歩し過ぎるとの批判が報じられている状況にあるという。
トランプ大統領は州知事が民主党の州に対する連邦政府の財政支援に消極的で、11月3日の大統領選挙を前に、民主党の法案に沿った形で追加経済対策がまとまることを警戒している。そのため、「追加対策の協議が夏季休会明け以降に延びた場合でも、共和党と民主党の双方の政策を盛り込んで規模が3兆ドル近くになる可能性よりも、共和党と民主党の間を取るような形で規模1~3兆ドルのあいだになる可能性の方が高い」との見解を示した。
■ロビンフッド現象の継続に寄与か
みずほ証券は28日付リポートで「最終決定には下院で多数を占める民主党との交渉が必要になるが、概ね事前の報道通りでポジティブサプライズではない」との見方を示した。前回の現金給付や失業給付で個人投資家が株式を投機的に売買する「ロビンフッド現象」が起きたが、米国株が底堅いこともあり、「今回の施策で同現象が一定程度継続」するとみている。今回が選挙前の最後の経済対策となり、共和党・民主党ともにコロナ対策をしっかりやっていると選挙民にアピールしたいがための、スピーディな対策発表と評価されるとした。
日本においては1人10万円の現金給付の申請期限は8月で終わるが、追加給付の話は全く出ておらず、「国会は休会中であるため、追加政策の議論はなく、次の財政政策の注目は、コロナ関連予算は要求に上限を設けないとされた、9月末の各省の2021年度当初予算の概算要求だ」と指摘した。また、米中と比較して日本の新型コロナのワクチン開発に遅れていることから、「米中がワクチン開発に成功した場合に、戦略的武器に使われる恐れがある」との見解を示した。(QUICK Market Eyes 川口究)