「住宅ローン会社から借り換えのオファーが来た」。ロサンゼルス郊外にコンドミニアムを所有する知人は15年固定ローンの金利が2.99%から1.99%に下がると大喜び。借り換え申請の準備を始めたと言う。歴史的な低金利を背景に住宅ローンの借り換え需要が旺盛だ。米大手銀行の融資担当者は「20年のキャリアの中で最も忙しい」と悲鳴をあげる。
米ワシントン・ポスト紙によると、最も人気がある30年物固定の住宅ローン金利は8月第1週に2.88%に低下した。フレディ・マック(連邦住宅抵当貸付公社)の統計がある1971年以降で最低だ。1週間前の平均レートは2.99%、1年前は3.60%、2018年11月は4.94%だったとしている。2年に満たない期間に金利が2%超低下したことになる。在庫不足と合わせ、過去最低水準の住宅ローン金利が住宅市場を下支えしている。
米住宅ローン金利は米10年物国債の利回りに連動している。新型コロナウイルスのパンデミック(疾病の大流行)で打撃を受けた米経済を刺激するため、米連邦準備理事会(FRB)が米国債を積極的に買い入れている。いわゆる量的緩和の一環だ。結果として名目金利とされる米10年物国債の利回りの低下傾向が強まっている。
FRBは一方で、フォーワード・ガイダンスでインフレ期待率を持ち上げ、原油をはじめコモディティの相場が上昇した。結果として、名目金利からインフレ期待率を差し引いた実質金利がマイナスになった。米国の実質金利はマイナス1.0%を下回る状態が続いていて、金利のつかない金の積極的な買いを誘っている。
金利が低下すると、投資リターンの比較から株式が買われる傾向もある。今年第2四半期(4~6月)の決算は80%を超す企業がアナリストの予想を上振れた。7月の米雇用統計は非農業部門の就業者数が予想を上回り、失業率は予想以上に改善した。バロンズ紙は、好決算と労働市場の回復は古いニュースで、実質金利のマイナスという新たな株買い材料が加わったと伝えた。
ドル安の地合いが一服した。6つの主要通貨に対するドルの強さを示すドル指数(DXY)が7月20日に95を割って以降にドル売りが鮮明になったが、チャートはここにきて「売られすぎ」を示す。ただ、実質金利の低下、代替通貨とされる金の上昇傾向、第2の基軸通貨とされるユーロ高の地合いが続くとみられていて、こうした要素はドルが軟調に推移することを示唆している。
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Market Editors 松島 新(まつしま あらた)福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て2011年からマーケット・エディターズの編集長として米国ロサンゼルスを拠点に情報を発信