【日経QUICKニュース(NQN)山田周吾】ヒューリック(3003)は10月9日、環境関連の目標を達成できなかった場合に支払う利息が増える「サステナビリティ・リンク・ボンド」(環境目標連動債)の発行条件を決めた。年限10年で発行額は100億円。国際資本市場協会(ICMA)のサステナビリティ・リンク・ボンド原則に適合する公募債としては世界初となる。しかし需要は発行額を1割上回る水準にとどまり、投資家の開拓には課題を残す結果となった。
■未達なら利率が年0.540%に
ヒューリックは環境関連の目標として、2つの「サステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット」を提示した。1つは事業に必要な電力を100%再生エネルギーでまかなうことを目指す国際的な取り組み「RE100」の達成。もう1つは耐火木造12階建て商業施設の竣工だ。今回の連動債の表面利率は発行から6年は年0.440%。2026年8月末の段階でこの2つの目標を達成すれば利率は据え置く。だが、どちらかでも未達なら利率は年0.540%に上がる。
■投資家の反応分析
今回のヒューリック債の主幹事を務めたみずほ証券によると、発行額100億円に対し110億円超の需要が集まったようだ。
機関投資家からの需要について、大和証券の松坂貴生氏は「初めての形態をとった社債だっただけに、先進的なものに投資しているとアピールできる面で妙味があったと考える」と分析した。
ただ金利の変わる基準となるESG(環境、社会、企業統治)目標を達成する可能性が実際にどれほどあるのか。これを把握することが難しかったのも事実で、投資家からの需要を集めるうえでハードルとなったとみられる。
新型コロナウイルスの感染拡大で在宅勤務が普及するなど、不動産市場を取り巻く悪材料は多い。国内生保の運用担当者は「先行き不透明感が強い不動産業界の10年債として見た際、もう少し利回りが高くても良かった」と指摘する。
またヒューリックが6月下旬に総額2000億円の3本立て劣後債を起債したことも足かせとなったようだ。「同じ発行体がより高い利回りを得られる劣後債を出している場合、そちらの方に妙味を感じる投資家も多かったのではないか」(国内運用会社の社債担当者)との声が聞かれた。
今回の起債について、ヒューリックは「今までなじみがなかった分、一定数の投資家は整理できていない部分もあったと思う。ただ発行にあたって仕組みを明確にすることができ、ESG投資における新たな取り組み自体は評価していただけたと考えている」(財務部)と一定の手応えを感じているようだ。
<金融用語>
ESG投資とは
SRI(社会的責任投資)とCSR(企業の社会的責任)を発展的に統合した考え方。頭文字はE(環境、Environment)、S(社会、Social)、G(企業統治・ガバナンス、Governance)をそれぞれ意味する。世界が貧富の格差問題、ボーダーレス化する地球環境問題や企業経営のグローバル化に伴う様々な課題に直面する中で、企業への投資は、短期的ではなく長期的な収益向上の観点とともに、持続可能となるような国際社会づくりに貢献するESGの視点を重視して行うのが望ましいとの見解を国連が提唱した。その結果、ESGの視点で投資を行う金融機関が欧米を中心に広がっている。