【NQNシンガポール=村田菜々子】人口13億人のインドで電子商取引(EC)市場を巡る主導権争いが激しくなっている。インド国内では大財閥リライアンス・インダストリーズが攻勢をかける。半面、米ネット通販のアマゾン・ドット・コム(AMZN)などが巨大な有望市場を逃してはならじと勢力拡大の機会をうかがう。リライアンスとの攻防は簡単には決着しそうにない。
■リライアンスに圧倒的地位
アマゾンはここにきてリライアンスとの対決色を鮮明にしている。事の発端はリライアンスが8月、インド小売大手フューチャー・グループの中核会社フューチャー・リテールの主要事業を買収すると発表したことだ。
リライアンスは傘下の通信子会社であるジオ・プラットフォームズと小売のリライアンス・リテール・ベンチャーズがそろって成長し、本業だった石油化学の分野からネット通販業務に軸足を移す方針だ。フューチャー・グループの事業買収もその戦略の一環だが、フューチャーの小売関連事業には既にアマゾンが資金面などでかかわり、業務提携でも合意ができている。リライアンスの買収をすんなり受け入れられるはずがない。
インドのエララ証券によると、リライアンスがフューチャーの事業を取得すれば、6月末時点で1万1800店ほどだったリライアンスの店舗網がさらに1800店ほど増加する。専門家からは「市場の覇権争いにおいてリライアンスに圧倒的な優位を与えかねない」との声があがっているという。
※リライアンス、アマゾン、ウォルマートの株価を年初を100として指数化
ただでさえジオやリライアンス・リテールには将来性に対する評価が高く、米国や中東の名だたる投資ファンドに加え、米フェイスブック(FB)やグーグルといったIT(情報技術)企業が相次いで出資している。事業基盤は強化される一方だ。アマゾンは競合するリライアンスへの事業売却は契約違反だと主張。シンガポール国際仲裁センターに売却中止を申し立て、暫定的な売却保留の命令を勝ち取った。
■ウォルマートも交え三つ巴
これに対しリライアンス側は「(取引を)遅滞なく実行する」との声明を発表した。ロイター通信などの報道によれば、フューチャー・リテールはシンガポール国際仲裁センターに「事業売却が実現しなければわれわれは(資金調達に支障が出て)清算手続きに入り、2万9000人以上が雇用を失う」と訴えたもようだ。
インドメディアなどの報道によると、フューチャーの事業売却を停止する暫定命令はインドの裁判所が承認しない限り法的な拘束力はない。アマゾンはインド当局に命令を考慮するよう働きかけているとみられるが、インドにおけるアマゾンの立ち位置は微妙だ。インドでは小規模な事業者が多く、インド政府は早い段階でインドに進出してきたアマゾンを「中小零細の事業者を圧迫している」と目の敵にしてきた。市場では「インド政府がリライアンスの側に付く可能性は否定できない」との指摘が出ている。
インドではアマゾンのほかに米小売り大手のウォルマート(WMT)も地盤を築いている。ウォルマートは今年7月、18年に買収したインドのネット通販大手フリップカートグループに追加出資を決めた。競争激化に備えて支援を強化する。EC市場で先行するアマゾンとフリップカートに、後発ながらインド国内企業として政治力と資金力を持ち、小売業者保護のために導入された外資規制とも無関係なリライアンス。三つどもえの戦いはリライアンス優位に進んでいるように映るが、勝負はまだわからない。