【QUICK Market Eyes 片平 正二】政府が新型コロナウイルスの感染拡大に対応するため、7日にも緊急事態宣言を再び発令する見通しだ。東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県が対象で期間は1カ月程度を想定しているとされ、対象を飲食店などに限定するとみられることから経済への影響を小さくしながら実効性が保てるのかが焦点だ。
ゴールドマン・サックス証券は4日付のリポートで、同社の見解をQ&A形式で解説した。下記はその概要。新たな情報が入手でき次第、アップデートするという。
Q 緊急事態宣言の発令に慎重だった菅首相が、ここに来て考えを変えた背景は?
A 年末年始にかけて感染状況が悪化を続ける中、①感染悪化が特に顕著な東京と周辺3県の知事から1月2日に緊急事態再発令の要請を受けたこと、②東京オリンピック・パラリンピックを予定通り開催したいという菅首相の決意表明、さらに、③政権支持率が急速に低下し始めたことが、政府の方針転換に寄与したと当社では考えている。支持率の低下は、秋までに踏み切る必要がある解散総選挙のタイミングとも密接に関連するため、特に重視された可能性がある。
Q 緊急事態宣言が適用される地域や期間、そして内容は?
A 記者会見において菅首相が用いていた「限定的・集中的」というキーワードがポイントとなりそうだ。加えて、政府が東京などに既に要請している飲食店に対する時短強化の実効性を高める(メッセージ性を強める)ことが主眼との菅首相のコメントに照らすと、前回よりもシンボリックなものとなる可能性が高いのではないか。
期間については、菅首相の経済インパクト重視姿勢に鑑みて、完全に解除されるまで延べ48日間に亘った前回よりも短い30日程度を、当社では想定している。
Q 現時点で考えられる経済インパクトは?
A 前回、緊急事態宣言が発令された20年4~6月期は、実質国内総生産(GDP)成長率(前期比年率)がマイナス29.2%と戦後最大の落ち込みを記録した。これと比べると、今回の経済インパクトはかなり限定的と予想する。
あくまで現時点での断片的な情報に基づく暫定的なアセスメントではあるが、経済インパクトは前回の2割未満に収まるのではないかと、当社では推察している。外需が堅調な点も経済への打撃を和らげる可能性が高い。
■緊急事態宣言の影響は日本株全体・内閣支持率に限定的=野村
菅義偉首相は4日、年頭の記者会見で、新型コロナウイルスの感染拡大に対応するため緊急事態宣言を再び発令する検討に入ると明言した。野村証券は4日付リポートで、新規感染者数が12月31日までの7日平均で前週比26%と急加速した点を踏まえ、「正月三が日明けのデータが明確に好転しない場合、日本株市場ではコロナ耐性の優劣を材料にした選別が意識される可能性がある」と指摘。具体的には、新規感染者数の増加に対するマイナスの相関係数が大きく、「コロナ耐性が弱い」とみなされるセクターはTOPIX17業種で建設・資材、運輸・物流などだという。また、「GoToキャンペーン」再開が遠のけば、これらセクターの業績見通しにも直接的な下押し圧力となり得る。
その一方で、プラスの相関係数が大きく、「耐性が強い」(株高に作用する)業種は電機・精密、情報通信サービスその他などだ。年初は個人投資家の影響が強まりやすいことも相まって、コロナ感染再拡大はグロース株優位の展開を後押しする可能性があるという。
ただし、政府の緊急事態宣言が、日本株全体の基調に与える影響は限定的とみているう。昨年4月の発令とは以下の点で状況が大きく異なるという。(1)菅首相は「飲食の感染リスクの軽減」を強調しており、経済活動の制限はターゲットの絞られた限定的な措置が予想される、(2)インバウンドの急停止、中国発のサプライチェーン麻痺、学校の全面休校措置、といった経済活動の大規模な混乱・停止が生じていない、(3)総じて感染拡大の影響に対する日本株市場の理解度が高まっている、(4)ワクチン接種開始が視野に入っている、などだ。
また内閣支持率の低下についても日本株の大きなリスク要因とは見ていない。(1)野党の支持率上昇が限定的で、政権交代リスクが小さい、(2)与党内で菅首相の経済重視政策への明確な反対が見られない、(3)外国人投資家の日本株ポジションは2020年累計(12月第4週まで)で約6.2兆円の売り越しであり、追加的な売り圧力は限られる、といった理由を根拠に挙げた。「新規感染者数の動向に注意を要するものの、総じて緊急事態宣言発令による日本株への影響は小さいだろう」と指摘した。