【NQNニューヨーク 横内理恵】外国為替市場でドルが主要通貨に対して戻りを試す展開となっている。対円では2月2日に一時105円17銭と、昨年11月中旬以来の円安・ドル高水準を付けた。米国の景気回復や財政支出拡大を見込んだ米長期金利の上昇が円売り・ドル買いを誘った。ヘッジファンドなど投機筋がドルの売り持ちを整理していることもドル高の一因となったようだ。
■ドル買い基調続く
にわかにドルの買い戻しが広がっている。米インターコンチネンタル取引所(ICE)のドル指数は91台と、2カ月ぶりの水準に上昇した。1月は6年ぶりの安値圏である90を下回って推移する場面が多かった。対ユーロでは1.2011ドルまで上げ、2カ月ぶりに節目の1.20ドルを上回るかが注目されている。
※ドル指数の推移(QUICK FactSet Workstationより)
個人投資家がゲーム専門店ゲームストップなど一部銘柄の「ショートスクイーズ」(空売りの締め上げ)を仕掛けたことを発端とした米株式市場の混乱を受け、流動性が高く、リスク回避の際に買われやすいドルには資金が向かいやすくなっていた。しかし今週に入って米株式相場の戻りが鮮明ななかでも、ドル買いの基調は続いている。
■持ち高見直しの可能性
低金利下でレバレッジをかけて運用規模を膨らませていた投資家が株式だけでなく、様々な市場で持ち高の見直しを進めている可能性がある。ユーロの買い持ちを縮小する動きで、「対ドルのユーロ相場は押し下げられやすい」(ソシエテ・ジェネラルのキット・ジャックス氏)との声があった。
米商品先物取引委員会(CFTC)が公表する1月26日時点の投機筋の持ち高は、対ドルでのユーロの買い越しが16万枚台となっている。過去最高だった昨年8月の21万枚からは減ったものの、依然として高水準だ。円の対ドルでの買越幅も1月に5万枚と、16年以来の水準に膨らんでいた。ICEのドル指数の売越幅も11年以来の高い水準で、幅広い通貨に対してドルの売りが積み上がっていることが分かる。
※CFTCポジション動向(ユーロ)
米経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)からもドルが買い戻されやすい地合いだ。2日には与党・民主党指導部がバイデン政権が掲げる1.9兆ドル規模の追加経済対策を財政調整法を活用して民主党単独で成立させるための手続きを始めたと伝わった。バイデン大統領は1日に野党・共和党の一部上院議員と対策についての協議の場を持つなど、超党派での歩み寄りも模索する。市場では「3月中に少なくとも1兆ドル規模の対策が見込める」(アマースト・ピアポント)との声が多い。
米国では新型コロナウイルスの1日当たりの感染者数が15万人を下回り、30万人前後だった1月のピークから大幅に縮小している。バイデン政権は4月末までに1億回分のワクチン接種を目指す。「欧州と比べるとワクチン普及は早く、追加経済対策の支えもあって主要国に比べて景気回復で米国が先行する」(TD証券のマゼン・イッサ氏)との見方が広がり、ユーロを売ってドルを買う動きに拍車がかかったという。
前週に節目の1%を割り込む場面もあった米長期金利は早くも底入れした(相場は天井を打った)様相で、名目金利から物価上昇率を差し引いた実質金利も「上昇に向かうとの観測が強まっている」(TDのイッサ氏)という。これまで新型コロナ収束や経済の正常化観測を織り込み、投資家のリスク選好が強まる場面で売られてきたドルだが、目先は相場の回復が鮮明になるかもしれない。
<金融用語>
シカゴIMM投機筋ポジションとは
シカゴIMM投機筋ポジションとは、CME(シカゴマーカンタイル取引所)の一部門であるIMM(International Monetary Market)で取引される通貨先物に関する投機筋の買い建て玉、売り建て玉の枚数の変化数値。米国ではCFTC(Commodity Futures Trading Commission=全米先物取引委員会)の元、各先物商品の未決済ポジション・データの公表が義務付けられており、その一環として公表されている。毎週火曜日の取引終了後に各取引所はデータをCFTCに提出、集計したデータを金曜日の取引終了後(日本時間土曜日の午前5時30分頃)にCFTCはホームページ上で公表している。ヘッジファンドなど投機筋のポジションの変化をとらえることで相場の方向性を知る手段として市場で注目されている。