【日経QUICKニュース(NQN) 中山桂一、鈴木孝太朗】東京証券取引所は4月の市場再編と並行し、東証株価指数(TOPIX)の見直しを進める。現在の東証1部からスタンダード市場に移る銘柄でも当面はTOPIXに継続採用されるため、指数としては大きな変化はないとの意見は多い。一方、今回の見直しで流通株式時価総額100億円未満の銘柄は段階的に組み入れウエート引き下げの対象となる。一部の企業にとってこの壁は厚く、株価の下げ要因となる可能性がある。
4月4日からの新たな所属先に関して1月に公表された企業の選択結果では、東証1部の84%に当たる1841社が最上位の「プライム」市場を選んだ。東証1部の企業でも事業環境や経営戦略を踏まえて残る344社が「スタンダード」市場に進む道を選んだ。TOPIXの見直しにおいては現在東証1部に上場していれば、スタンダード市場を選んだとしても同指数への採用は継続される。
■時価総額未達企業は比率低減対象に
一方、今回のTOPIX見直しで流通株式時価総額100億円未満の銘柄は「段階的ウエート低減銘柄」となる。対象銘柄は2022年10月末から25年1月末まで四半期ごとに10段階でTOPIXの構成比率が減っていく。2回ある判定で一度でも流通時価総額が100億円以上となれば、構成比率は下がらないまま指数採用は継続する。1回目判定は21年12月までに終了した。
2回目の判定は22年10月に実施される。この判定は例えば3月期を期末とする企業の場合、22年3月末時点の流通株式数に22年1~3月の株価平均を用いて計算する。ボーダーラインの企業にとって、今がまさに正念場といえる。
<TOPIX見直しのスケジュール> | |
時期 | 内容 |
21年12月末まで | 第1回判定 |
2022年1月28日 | 第1回で流通株式時価総額100億円未満の企業に連絡 |
4月4日 | 新市場区分に移行 |
10月まで | 対象会社のみ第2回判定のための手続き |
10月7日 | TOPIXの段階的ウエート低減銘柄を公表 |
10月末から | TOPIXの段階的ウエートの低減を開始 |
23年10月末 | 段階的ウエート低減銘柄の再評価 |
東証の情報サービス部によると、TOPIX見直しに関して企業側から1月以降に「十数件の問い合わせがある」という。TOPIXの見直しルールの確認が多く、東証は今回の見直しの手続き方法も含めて説明している。
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■株式分割や自社株消却、指数採用継続へ動き
流通時価総額の維持・向上を目指したとみられる企業側の動きもある。ソフト受託開発を手掛け、時価総額が200億円程度と低めのクロスキャット(2307)は1~3月、業績予想の上方修正とともに期末配当を増やし、株式分割や自社株の消却も打ち出した。
株主優待についても新たに拡充や新設する動きがある。ブックオフグループホールディングス(9278)は3月15日に保有株が100株以上の株主を対象にした優待を拡充した。紀文食品(2933)も2月、新たに株主優待制度を導入した。
東海東京調査センターの仙石誠シニアエクイティマーケットアナリストは「流通株式時価総額を高めるために、今後も中規模から小規模の企業で株主優待の新設や拡充があるだろう」との見方を示す。
■指数除外銘柄には株価下押しも
現在、TOPIXに採用されている銘柄が指数から除外されるとなると、その銘柄には売り圧力がかかりやすい。ニッセイ基礎研究所の井出真吾チーフ株式ストラテジストは「すでに昨年から、TOPIXを外れるとみられる一部銘柄にアクティブ投資家の売りが出ていた」と指摘する。そのうえで「仮にTOPIXから外れた場合、さらにパッシブ運用のファンドから売りが出て株価の下押し圧力が続くだろう」とみる。
「段階的ウエート低減銘柄」となった場合でも復活の道は用意されている。23年10月に再び流通株式時価総額などを評価され基準を満たせばウエートを戻す措置がある。企業側の様々な動きの期待もあるが、「実際にはウエートが下がっていく期間に流通時価総額を上げるのはかなりハードルが高い」(大和総研の神尾篤史主任研究員)との指摘がある。
企業にとってTOPIXに生き残れるかは、株価の動向を左右する大きな問題だ。全体としては「骨抜き」との指摘も多い東証の市場再編だが、今後もきめ細かく企業の動きを追う必要はある。