【日経QUICKニュース(NQN) 船田枝里】米国から欧州に金融システムを巡る不安が伝染している。米国の中堅銀行の経営破綻に端を発した金融不安を受け、15日には欧州でスイス金融大手クレディ・スイス・グループの株価が急落し、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)は急騰した。クレディ・スイスはスイス国立銀行(中央銀行)から最大500億スイスフラン(約7兆1000億円)の資金調達計画を発表するなど不安解消に動いているが、2008年のリーマン・ショックのような危機に陥る可能性があるのか。クレジット市場の関係者に聞いた。
■「信用収縮のリスクは残っている」
大橋俊安・大和証券チーフクレジットアナリスト
銀行仲介業では、世界的な金融危機の再発を防ぐための自己資本規制「バーゼル規制」がしっかりしている。このため、米銀シリコンバレーバンク(SVB)の経営破綻は想定していなかった。市場では「銀行は絶対安全」という思い込みがあった。
米金融当局が預金の全額保護に動くなど迅速に対応したことで市場心理は落ち着いても良さそうだったが、クレディ・スイスに「飛び火」したということは収まっておらず、漠然とした不安を抱えている状態だといえる。投資家の行動によっては信用収縮につながるリスクが残っているだろう。
市場では規制が整っていないノンバンクの金融仲介業で問題が発生するとの見方が強かった。今回、想定していなかった銀行仲介業で経営破綻が起きたことで、ノンバンクの金融仲介業に飛び火する可能性が改めて意識される。
国内社債市場で影響を受けそうな対象は今のところはない。もっとも、米国で起こった金融システム不安が欧州で広がったように国内でもどこに出るかはわからず、影響がないと言い切るには時期尚早だ。
■「当局の動きは顧客にとってポジティブ」
辻宏樹・みずほ証券シニアクレジットアナリスト
SVBの経営破綻については、同行の健全性を強調するメッセージが発せられる一方、信用不安が市場で大きく取り上げられた。ムーディーズ・インベスターズ・サービスやS&Pグローバル・レーティングといった大手格付け会社も格下げに動いた。不安が預金者に伝わり、多くの顧客が預金の引き出しに走ったほか、市場も疑心暗鬼となった。
巨額の資金引き出しが続けば、流動性危機に陥る銀行は他にも出てくるリスクが考えられる。その意味で、管財人となっている米連邦預金保険公社(FDIC)など当局が預金の全額保護に動いたことは顧客の心理に一定程度、ポジティブに受け止められた。投資家よりも顧客の心理を優先したと考えられる。
ただ、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)に問題がない銀行であっても預金者の心理が悪化すれば多額の資金流出の可能性が出てくる。今後の動きについては顧客心理が落ち着くのを待つしかなく、市場のセンチメントを注視する必要がある。