英国のチャールズ国王の戴冠式。独立以降に米国の大統領は英王室の式典に出席しない伝統があり、ジル・バイデン大統領夫人と孫娘が出席した。それでも英国を「兄弟」と考える米国人は多い。即位を宣明する象徴的な6日の儀式を米国の全主要ニュース・チャンネル、CNN、MSNBC、FOXニュースがライブ放送、関心の高さを示した。
テレビ業界用語でいう「裏番組」はバークシャー・ハザウェイの年次株主総会だった。英国王の戴冠式中継の「裏」で、米ネブラスカ州オマハで開かれた株主総会をCNBCが生中継した。株主総会前には親交が深いCNBCのベッキー・クイックさんによるウォーレン・バフェット会長とマンガー副会長の長いインタビューを放送。バフェット氏は「朝起きて英国からの中継と競合することに気が付いた。英国はチャールズ国王の戴冠を祝ったが、われわれにもチャールズ王がいる」と冗談を飛ばした。盟友である副会長の愛称は「チャーリー」で、正式名は「チャールズ」だ。
株主総会はバークシャーの前会計年度の業績をバフェット氏が説明した後、ハイライトの質疑応答に移った。地銀の破綻が相次ぎ、景気後退の兆しがあり、地政学リスクが少なくない中で、著名投資家の発言に注目が集まった。最も質問が多かった銀行破綻に関しては、政治家や規制当局の情報発信がお粗末だったと批判しながらも、シリコンバレーバンク(SVB)の預金保護がなければ壊滅的な状況に陥っていたと当局の対応に一定の評価を示した。SVB経営陣については私利私欲を優先したと厳しかった。
株主総会には後継者とされる非保険事業担当のグレッグ・アベル副会長(60)らも登壇したが、カメラはバフェット会長とマンガー副会長にほぼ固定された。92歳と99歳のトップ2の前に傘下のシーズキャンディの「ピーナッツ・ブリトル」が飾られていたのが印象的だった。マンガー氏はバリュー投資のリターンが小さくなる恐れがあると警告した一方、バフェット氏は「多くの投資家が短期思考でパニックを起こし間違った判断をすることが多い」と指摘しバリュー投資の機会はまだあるとの考えを示した。フィナンシャル・タイムズ紙は、投資先が見つけられず、バークシャーの保有する現金は20億ドルから1306億ドル(約17兆6000億円)に急増したと報じた。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、日本の商社への投資についてバフェット氏が株式保有にとどまらず、パートナーになる可能性を示唆したと伝えた。
チョコレート製造・販売のシーズキャンディやコカ・コーラなど好物から発展した投資のほか、最近では米石油会社オキシデンタル・ペトロリアムやアップルの投資拡大が注目された。バフェット氏はオキシデンタルについて完全支配の可能性を否定、アップルのパフォーマンスを高く評価した。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、5年ごとに良い判断を下すのがバフェット流成功のフォーミュラ(法式)だと報じた。バークシャー・ハザウェイを率いた58年間の正しい判断は約12回あり、投資リターンは378万7464%に達したとしている。バフェット氏の成功は企業への投資だけではなく、人への投資も寄与したと解説した。
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福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。