大谷翔平がドジャースへの移籍決定を公にした12月9日以降、日本で大谷報道が盛り上がり、「ロサンゼルス地元沸き立つ」などと伝えられた。市内で特に目立った動きはないものの、メディアは沸騰した。米国の幅広いメディアは大谷の14日の入団会見を異例の大きさで報道。ウォール街やビジネス界に影響力のあるウォール・ストリート・ジャーナル紙が、大谷の愛犬「デコピン」を大きく取り上げたのには驚いた。もはやスポーツ界を超越、大谷は世界で最も話題のセレブリティーになった。
英フィナンシャル・タイムズ紙は、ベーブ・ルース以来100年ぶりの本格的二刀流の大谷と、最も強いファンベースを持ち有力な投資家グループが支援するドジャースの組み合わせが移籍に繋がったのかもしれないと詳しく報じた。野球への関心が高いといえない英国の経済紙が大リーグ(MLB)のニュースを取り上げるのは珍しい。
10年で7億ドル(約1000億円)という破格の契約。AP通信によると、契約期間中の年間報酬は200万ドル(約2億8500万円)だけで、残り97%は2034~43年に無利子で後払いする前例のない契約。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、今日の1ドルは明日の1ドルと同じ価値ではない「貨幣の時間価値」の恩恵をドジャースは受けると解説した。米連邦準備理事会(FRB)の高金利政策のおかげで支払いは割安にみえると指摘、大谷の契約のMVP(最優秀選手)はFRBのパウエル議長としている。大谷の契約は金利と関係しているが、全ての関係者にとって成功と呼べるかどうかは、ドジャースタジアムだけではなく、FRBの中で何が起こるかにかかっていると伝えた。
大谷の契約金は多くが考えるより高くないとの指摘は少なくない。大リーグのルールで算出する割引率を適用すると、ドジャースが大谷に支払う平均年棒は4600万ドル(約65億3000万円)になる計算だと複数のメディアが報じた。NBCニュースは、大谷の10年契約の実質的価値は7億ドルより大幅に低いと伝えた。専門家の1人は、インフレ率などを考慮すると総額4億6200万ドル(約656億円)程度としている。もっとも大谷本人にとって、お金は勝利より重要度が低いのかもしれない。
米国内の大谷報道は日本人に関する過去のどの扱いより大きい。そう思えるが、ほかの日本人投手の争奪戦をめぐるニュースも熱い。FOXスポーツは、大リーグで一度も投げていないオリックスの山本由伸が近く最も高給取りの投手になるだろうと報じた。25歳という若さが寄与して大リーグで最も注目される「コモディティー(商品)」になったと指摘、お金持ち球団のヤンキース、メッツ、ドジャース、ジャイアンツ、レッドソックスが獲得を競っているとしている。
横浜DeNAの今永昇太に関する報道も増えてきた。ニューヨーク・ポスト紙は、山本由伸の獲得に失敗すれば、ヤンキースとメッツは今永昇太を検討すると報じた。レッドソックス、ドジャース、カブスも今永の獲得に関心を示しているとしている。MLBドットコムは、楽天の松井裕樹がセントルイスを訪問し、カージナルスと面談したと伝えた。WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で話題をさらったヌートバーが所属する球団だ。年齢の問題で早期の大リーグ移籍が制限されるロッテの佐々木朗希をめぐる報道も目立つ。ロサンゼルス・タイムズ紙やCBSなど主要メディアは大谷と同じ道を歩む可能性があると解説している。
WBCへの関心が低かった米国で今年3月の決勝は大きく注目された。スポーツ情報専門サイト「ジ・アスレチック」によると、中継したFOXスポーツとスペイン語放送の視聴者数は平均450万人と2017年大会決勝と比べ69%多かった。米メディアに名前のあがる日本人投手はいずれも今年の侍ジャパンで活躍した。大リーグ関係者は別の視点でWBCを観ていたようだ。日本のスターをめぐる報道はまだ続きそう。ロサンゼルスでは米メディアの大谷担当記者が増えても誰も驚かない。
(このコラムは原則、毎週1回配信します)
福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。