【NQNロンドン=蔭山道子】7日の欧州株式市場で、医薬・農薬大手の独バイエル株が一時24ユーロ台と2005年以来の安値をつけた。株主は会社分割などの組織改編を求めるが、同社は5日の説明会で「今はその時期ではない」との認識を示した。業績回復への道筋が不透明で、アナリストによる目標株価の引き下げも相次いでいる。
バイエル株の過去1年間の株価推移
「4つの箇所でひどく壊れている」。5日、バイエルの2023年12月期決算発表に伴う説明会で、ビル・アンダーソン最高経営責任者(CEO)は警戒感を示した。挙げた4つの問題とは①医薬品の特許切れと開発パイプライン、②米国での訴訟、③高水準の債務、④社内の官僚主義的な体制だ。
アンダーソン氏は、こうした問題が「運命を選択する能力を著しく制限している」と言及。事業の分離や独立となれば「18~24カ月は総力をあげて取り組む必要があり、キャッシュの創出はその期間を超えて遅れる可能性がある」などと、会社分割を見送った背景を説明した。
代わりに、今後2~3年は「4つの問題」解決に注力するとともに、意思決定を迅速にし、経営資源を影響力のある事業にダイナミックに投じられる経営体制の整備を進めるという。裏を返せば、農薬・種子の作物科学、医薬品、コンシューマー・ヘルスケアという主要部門を軸に会社を3分割するといった、投資家が求める組織改編は当面、実施されそうにないとも受け取れる。
投資家の懸念は、18年に買収した農薬・種子大手の米モンサントの除草剤「ラウンドアップ」などを巡る訴訟リスクにある。賠償金支払いなどの関連費用が重荷となり、23年12月期のフリーキャッシュフロー(純現金収支、FCF)は13億ユーロと前の期比で57.9%減った。
24年12月期について、売上高が470億~490億ユーロと前期(476億ユーロ)並みは確保できると見込む。だがEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)は特殊要因の調整前で107億~113億ユーロと、前期の117億ユーロから減少する見通しだ。2月には大幅な減配計画も示したが、24年12月期のFCFは20億~30億ユーロにとどまるとの見通しを示す。
バイエルは経営体制の整備が年間20億ユーロほどのコスト削減につながると説明するが、市場では「バランスシート改善へ向けた広範な取り組みがなければ状況は厳しいまま。残念だ」(ジェフリーズ)との声が漏れる。
米シティグループのアナリスト、ピーター・バーダルト氏は「バリュエーションの面から(株価が)明らかに割安であるにもかかわらず、投資家がエクイティストーリーに関わろうとしない」と分析する。
バイエルのアンダーソンCEOは、会社分割などが「今はその時期ではない」というのは「絶対にない、と誤解されるべきではない」と強調した。だが市場では足元で、目標株価の引き下げが相次ぐ。
ドイツ銀行のアナリストは「訴訟については戦略をいくらかは変更しつつあるようだが、その多くは明らかにしておらず、ブラックボックスのままだ」と指摘。説明会で示された内容は中期的な成長に向けた見識に乏しいとして、目標株価を34ユーロから29ユーロへ引き下げた。
ジェフリーズも5日付リポートで37ユーロから29ユーロへ下方修正した。シティは2月29日付で86ユーロから33ユーロへ一気に下げていた。