米大リーグ、ロサンゼルス・ドジャースを解雇された大谷翔平の通訳、水原一平氏に関連したスキャンダルに米国人が衝撃を受けた。大谷の結婚報道は控えめだったが、突然浮上したスキャンダルを主要メディアはトップ級で報じた。ワシントン・ポスト紙は「大スターに渦巻く驚愕のスキャンダル」との見出し。AP通信は「野球界最大の賭博スキャンダルに発展する可能性」と伝えた。SNS(交流サイト)のXの投稿トレンド・ランキングの上位に複数の関連ワードが入った。ネガティブな投稿も多い。
きっかけはスポーツ専門局ESPNとロサンゼルス・タイムズ紙。ESPNは、水原氏が19日夜の90分間の電話インタビューで、南カリフォルニア・オレンジ郡のブックメーカー(賭博業者)ボウヤー氏へのスポーツ賭博の借金が膨れあがり、大谷に事情を説明したと語ったと報じた。大谷は借金の肩代わりに同意、自身のコンピューターで自分名義の銀行口座にログイン、賭博業関係者に直接送金したとしている。1回の送金額は50万ドル、合計450万ドル(約6億8100万円)が送金されたと伝えた。翌20日、大谷の広報担当者は水原氏の発言を撤回、大谷の関与を否定したとESPNは報じた。ロサンゼルス・タイムズ紙は、水原氏による「大規模窃盗」の被害に遭ったとする大谷の代理人であるバーク・ブレットラー法律事務所の主張を速報した。
関連の続報も多い。AP通信とCNNは、米IRS(内国歳入庁、日本の国税庁に相当)が違法賭博の疑いで賭博業者と水原氏を捜査していると報じた。スポーツ賭博は40近い州で合法ながら、カリフォルニア州では違法。違法業者がルールを踏まえて正しく所得申告しているとは考えにくい。NBCは、水原氏はカリフォルニア大学リバーサイド校を卒業したとされるが、大学によると水原氏の在籍記録はないと伝えた。ボストン・レッドソックスは水原氏の通訳としての雇用を否定。経歴詐称も浮上した。米大リーグ機構(MLB)は、大谷選手と水原氏の調査を開始したと発表。MLBの規定では、違法な賭博業者と取引をした選手や職員らは処分対象になる。
メディアは大谷の関与の有無に注目。ニューヨーク誌は、銀行が送金前に大谷本人の確認を取らなかったとは考えにくく、窃盗被害にあったとの大谷側の主張はおかしいと解説。CBSは、大谷が直接送金した場合は違法業者の回収を手助けしたと考えられ、マネーロンダリング(資金洗浄)などの罪に問われる可能性があるとする専門家の見解を伝えた。35年前に野球賭博で永久追放されたピート・ローズの二の舞になる恐れがあるとの報道も複数ある。CNNは、ローズ氏の事件や100年以上前のホワイトソックスの8選手の永久追放など野球界の賭博事件を紹介した。
MLBとIRSの調査・捜査の注目度は高く、徹底的に調べるため長期化する見通し。ロサンゼルス・タイムズ紙は24日付のコラムで、巨額を投じて獲得した大谷のイメージは悪化したと伝えた。ダメージ・コントロールは容易ではなさそうだ。大谷のメンタルへの影響も懸念される。スキャンダル報道は一旦落ち着いたようにみえるが、調査報道が不定期に掲載・放送される可能性は否定できない。ローズ氏の事件に関する著書を出版予定のオブライアン氏は、アトランティック誌への寄稿文で、ローズ氏をめぐる掘り下げた報道の詳細はスキャンダルにあふれていたと回想、大谷は気を揉んでいるだろうと主張した。
ベーブ・ルース以来の大物とされる大谷翔平への米国人の関心は非常に高い。背番号17のユニフォームは飛ぶように売れ、書店では大谷翔平に関する本が山積み。大リーグで最も熱いとされるドジャース・ファンが耳を覆いたくなる状況になっている。
(このコラムは原則、毎週1回配信します)
福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。