【QUICK Market Eyes 大野弘貴】トランプ米政権の関税政策で世界経済への先行き不透明感が強まり、4月以降の株式相場は大きく調整した。独立系運用会社fundnote(ファンドノート)の川合直也最高投資責任者(CIO)に今後の相場見通しを聞いた。
――トランプ米政権の関税政策を巡り市場の混乱が続いています。今後の相場展望と景気見通しについて教えてください。
「日経平均株価の予想レンジを切り下げた。年始時点では3万6000~3万8000円のレンジを想定していたが、現在は3万2000~3万6000円としている。国内企業は米国向けビジネスに加えて中国向けでも厳しい状況が続く。ほとんどのセクターで企業業績が落ち込むだろう。加えて、ドルの対円相場も昨年末時点から約10%下落した。国内企業全体の1株利益(EPS)が15~20%落ち込むと仮定し、日経平均も昨年末の約4万円から15%下落した3万4000円を中央値としてみている。
また、米企業はより厳しい状況にある。大型ハイテク株がけん引した直近の株価上昇で、米株の割高感が強まっていた。直近の調整で幾分割高感が後退したものの、今後EPSの切り下げが予想される中、現状のバリュエーション(投資尺度)が割安だと断定するのは時期尚早だ。現状、S&P500種株価指数は5000前後が実力値だとみている。米経済は景気後退入りするだろう。ただ、スタグフレーションに陥ることはないだろう。それでも、景気後退下において、株価指数が年始水準まで戻すことはないと考えている」
――相場反転のきっかけに、どのような要因が挙げられますか。
「米連邦準備理事会(FRB)が何かしらの行動に出ることが必要だと考える。おそらく、4~5月の米経済指標は製造業や小売りなど、全方面で悪化することが予想される。このデータを基に、FRBが利下げや量的緩和(QE)に動くことで、マーケットは次第に落ち着きを取り戻し始めるだろう。ただ、新型コロナウイルスのパンデミック直後のような大規模な金融緩和は期待できない。景気後退下でEPSが切り下がる中、マルチプル(評価倍率)の拡大には大規模な金融緩和が必要となる。また、現状においてトランプ大統領は米債務削減を優先していると判断できる。大規模な金融緩和が株式のバブルにつながることはないだろう」
――EPSが上昇に転じるタイミングについて教えてください。
「正直、反転するタイミングは今は読めない。少なくとも、1~3月期決算が好調でもこれを市場が好感する可能性はほとんどないものと考えている。4月以降の設備投資が落ち込むことで、4~6月期決算はかなり悪い結果となることが想定される。ファンダメンタルズ(基礎的条件)に着目した投資をする上で、4~6月期決算がどれほど悪化するか見極める必要がある。
16日からは関税を巡って日米協議が始まる。この場で米側から円安是正を求められた場合、企業業績と日経平均には更なる下押し圧力となり得よう」
――このような状況下で有望とみるセクターは。
「引き続き、グロース株が有望とみている。米国が利下げに向かい、日本が利上げできない状況において、円高圧力が加わることで外需セクターやバリュー株に対して内需・グロース株が相対的に強含む可能性がある。直近3年間におけるトレンドが全てリバーサルに動いていることも追い風だ。これまで、半導体株と小型グロース株では逆相関の動きがみられてきた。昨年夏に東京エレクトロン(8035)の株価が下げに転じたタイミングとほぼ同時期に、グロース株がアウトパフォームし始めた」
――直近の相場変動時における投資家の動きについて教えてください。
「幸い、弊社が運用するファンドは資金流入が続いている。井村俊哉氏が投資助言する『匠(たくみ)のファンド かいほう(kaihou)』は相場が大きく下落した4月7日を除き、設定ペースは鈍化しているものの純増が続いている。IPO(新規株式公開)クロスオーバー投資の『匠(たくみ)のファンド あけぼの(akebono)』についても、設定が解約を上回る状況が続いている。あけぼのは年初来の投資リターンが3.0%と東証株価指数(TOPIX)を大きくアウトパフォームしているほか、比較的富裕層の多い投資家属性から大きな資金流出に見舞われていないというのが現状だ」
――それぞれのファンドの特色を教えてください。
「kaihouは原則として現物株に投資する。先物でのヘッジやキャッシュに退避することは基本的にない。このファンドの本質は市場全体の方向を予想することではない。本源的な企業価値に対して割安で下値余地の小さい企業に投資するのを前提とし、エンゲージメント活動による企業価値の向上がパフォーマンスを左右する。
akebonoはIPOから間もない中小型成長株への投資がメインだが、直近の株価下落局面において先物でヘッジするなど、比較的流動的な運用を行っている。また、状況に応じてキャッシュ比率を高めることもある」
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