「最近ひしひしと未曾有の高齢化を感じる」ーー。投信の運用業務や自己売買部門のマネージャー、ストラテジストを経て、現在は個人投資家として活躍する男性、S氏と話す機会があった。歴史を紐解くと日本株の株式益回りは高い(株価は割安)が、日本株が買われないのは「高齢化」に伴う中長期的な構造問題があるのではないかとも感じているという。
東証1部の株式益回りは17日時点で6.87%。株式に求められる株価収益率(PER)の逆数である益回り(1株利益を株価で割った値)であり、10月15日には16年8月3日以来の7%台に乗せた。S氏は過去の水準からすると割安な水準だと指摘する。
少子高齢化に伴う中長期的な成長が見込めない日本。長年に渡り日本株に関わってきたS氏はふと自身の体調の変調とともに「日本の高齢化」の現実を見つめた。業界全般に関わる話として今年12月に迫った個人投資家のマイナンバー提出期限にも高齢化の影響が出るのではないかと危惧する。
2016年より証券会社で口座を開く際にはマイナンバーの提供が必要となったが、それ以前に口座開設した個人投資家には猶予期間が設けられていた。その期限が18年末だ。
S氏は「マイナンバー提供をしていない高齢投資家が多いとみられ、提供の煩わしさなどから年末で市場から退場する投資家が出るのではないか」とみる。
日本証券業協会は「証券口座のマイナンバー取得状況は公表していない」とし、「協会としては新聞広告に掲載するなど周知活動を進めている」と説明する。仮にマイナンバーを提出しない場合でも罰則規定はなく、「現時点で取引に制限はかからない」とのホームページに明記する証券会社もある。
とはいえ、S氏が指摘するように高齢化とともに市場から退場する投資家は少なからずいるだろう。過去の例からすると、ジュニアNISAが始まった当初マイナンバー提出が足かせとなって普及が進まないといった事態もあった。
現時点でどれほどの投資家が市場から離れるかは未知数だが、12月というひとつの期限を前に金融資産を多く抱える高齢投資家の動きには注意も必要だろう。
シンガポールを拠点とするファンドの運用担当者は2014年にインタビューした際「人口減少問題を注視している」と語り、「政府だけでなく日本人全体でもっとよく直視すべき問題」と警鐘を鳴らしていた。
足元の企業業績は好調を維持できるとの見方が多いが、人口減少問題を鑑みると中長期の成長を見込みにくい。今後、長期投資家が人口減少問題を日本株を敬遠するひとつの理由として挙げる可能性もありそうだ。(中山桂一)
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