ESG(環境・社会・企業統治)投資への関心が高まっている。野村ホールディングスが出資する米投資顧問、アメリカン・センチュリー・インベストメンツ(ACI)でヘッド・オブ・ESG&インベストメント・スチュワードシップを務めるギオン・マスコット氏に投資家として日本企業に求めることを聞いたところ「報酬制度の透明性が必要だ」と語った。
――ACIは長くESGをテーマとした投資に取り組んでいます。運用体制の特徴はどこにあるのでしょうか。
「ACIはESGが(金融市場で)主流となる前から取り組み、独自のESGスコアリングシステムを保有している。企業のESG課題への取り組み度合いを財務上のリスクに換算したうえで、ファンダメンタルズ(経済の基礎条件)分析に統合している。すでにESG評価を550億ドル以上の資産で活用している」
――金融市場では急激にESG投資や、投資を通じて社会問題の解決を目指すインパクト投資への関心が高まっています。
「マーケットがESGに関連するリスクに反応するようになってきたからだ。米フェイスブックや独フォルクスワーゲン、そして日産自動車の事件など市場で重要なテーマになっている。運用担当者は、投資プロセスのなかで十分にESG要素を統合することが求められている」
「もう一つは(1980年以降生まれの)ミレニアル世代の増加だ。日本だけでなく欧州や米国でミレニアル世代は次の世代として勢いを増している。彼らはESGへの関心を共有している。日本では政府がインパクト投資を支援していることも大きい」
――19年以降はESGのなかでもどのようなテーマに注目されていますか。
「次の2~3年で3つの大きなテーマがある。ひとつは気候変動のうち、水利用に不便を感じる水ストレスの問題だ。企業がこの問題に対応しているかの調査を始めている」
「2点目はサイバーセキュリティーだ。社会のデジタル化が進む中で、消費者は個人の情報がどのように集められ、共有されているか懸念している。(企業は)よりよい管理方法が求められる。欧州連合(EU)が施行した(厳しい情報管理を企業に求める)『一般データ保護規則(GDPR)』は、他の国・地域の政策にも広がっていくだろう」
「『G』の分野では、取締役会の多様性が重要だ。海外の年金基金なども関心を持っている」
――日本でもESG投資の資金は急激に増えています。日本企業に投資家として求めることはありますか。
「『E』と『S』の分野では情報開示が詳細まで進み、高く評価したい。一方で『G』の分野の情報開示は米国やドイツ、カナダの企業と違いが大きい。日本企業には取締役会の独立性と多様性を求めたい」
「報酬制度の透明性も必要だ。ESG分野に資金を振り向ける投資家は、同時にリターンも期待しているからだ。ACIでは、最高経営責任者(CEO)の報酬が(投資期間中の株式の値上がり益と受取配当金の合計を投資開始時点での株価で割って算出する)『トータルシェアホルダーリターン』と連動しているかに注目している」
【日経QUICKニュース(NQN) 聞き手は岩本貴子】
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