カナダの仮想通貨交換所クアドリガCXの最高経営責任者(CEO)死去を受けた混乱の波紋が静かに広がっている。昨年は日本のコインチェックから約580億円分の仮想通貨が流出し、交換所のガバナンス(管理体制)のずさんさが浮き彫りになった。今回は経営トップの死に伴って通貨喪失のリスクが高まったもので、ガバナンスの深刻さでは昨年以上ともいえる。市場の信認回復は再び遠のいた。
■「秘密鍵」も葬られた
クアドリガはバンクーバーに拠点を置く大手交換所の1つ。話は創業者であるコットンCEOが昨年12月、30歳の若さで急逝したところから始まる。コットン氏は仮想通貨を1人で管理していたらしく、同氏の死により、インターネットから遮断された電子財布「コールドウォレット」を開くためのパスワード「秘密鍵」がわからなくなってしまった。そのため、顧客の預けた資産(日本円で150億円超相当)が引き出し不能に陥った。
京大大学院の岩下直行教授によるとコールドウォレットが開けなくなるのを防ぐには通常、秘密鍵やコンピューターのIPアドレスを印字した「ペーパーウォレット」を作り、頑丈な金庫で保管するなどしてリスクを避ける。ウォレット作成に用いたパソコンは壊す。日本の大手交換所でも同じ対応をとっていると見られる。だが海外では大手でも経営メンバーと機密管理者が極めて少なく、コインチェックの教訓から規制が厳しくなった日本に比べるとガバナンスは緩い。クアドリガのような事態がいつまた起きてもおかしくない状況になっている。
■非中央集権の思想がアダに
ほとんどの仮想通貨の仕組みは非中央集権の思想で成り立っている。投資家は本来は自己責任で保有通貨を管理すべきだが、時間的な制約などでそうもいかないために交換所に預けっぱなしにする構図が生じていた。規制だけで交換所のリスクを排除できないとすれば、投資家はいったいどうすればよいのだろうか。
アルトデザインの藤瀬秀平チーフアナリストは「DEXのような中央管理者のいない交換所を選ぶか、完全な自己責任でウォレットのソフトウエアを管理しなければならない」と指摘する。自己責任でするウォレットの管理は時間も手間もコストもかかり、取引初心者にはハードルが高い。
ビットコインのドル建て価格は足元では1ビットコイン=3300~3400ドル台と、2017年9月以来の安値圏でさえない動きを続けている。クアドリガでの資産凍結や喪失はビットコインなどの需給を一時的には引き締めるが、交換所不信から新規の投資家が参加しなくなれば次に訪れるのは下落基調の再開だろう。
仮想通貨の交換所は本来、銀行のような役割を果たすはずだが「今のところは何もかもがお粗末」(京大大学院の岩下教授)だ。市場は17年12月のピークから大幅に縮んだとはいえ、いまでも技術革新への期待から世界中に保有者がいる。そうした投資家に見切りを付けられないように改革を進められるのか。クアドリガを巡る混乱で情勢はだいぶ厳しくなってきた。
【日経QUICKニュース(NQN ) 尾崎也弥】
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