インターネット上の仮想通貨、ビットコインの上値が重くなってきた。空売り持ち高の解消などで一時は1ビットコイン=9000ドル台と約1年ぶりの高値を付けたが、追随する新たな買い手が増えたとの話はとんと聞こえてこない。足元ではしばしば急落を演じ、11日時点では8000ドル前後で推移している。投資家の新規参入を阻む要因の1つとみられているのが、ビットコインとともに主要コインの一角を占める「テザー」(USDT)を巡る懸念だ。
テザーを発行するテザー社は香港の大手交換所ビットフィネックスとの人的な結びつきが強い。その関係でテザーには中国マネーが流れ込みやすいとされてきた。かつては1ドル=1テザーの等価交換をうたっていたが「3月ごろに『1USDT=法定通貨、現金に相当するものまたは(仮想通貨など)その他の資産』と改められたらしい」(ビットバンクの長谷川友哉マーケット・アナリスト)という。テザーの裏付けの一部にビットコインが用いられている公算は大きく、「ビットコインが4月から上昇基調をたどった背後に(ビットフィネックスなどの)価格操作的な買いが絡んでいた」との指摘は市場には多い。
ビットコインには3月のテザーの商品設計の変更前にも「価格操作」の疑惑が出ていた。テザーを受け取る側がそれをビットコインなどに換えるなか、相場への支援が必要だったからだ。米テキサス大学のジョン・グリフィン教授などが2018年6月の論文で「17年のビットコインバブルはテザー絡みの買いが一因となった」とまとめたのは記憶に新しい。不当なテザー発行がビットコインの価格操作につながったと米当局からも疑われた。形は変わってもテザーとビットコインの関係性は変わっていないと考えられている。
テザーの時価総額は約32億ドルある。テザー社の顧問弁護士は以前、「ドルでは7割程度しか裏付けがない」と認めていた。3月の設計変更でドル保有の基準は緩んだとはいえ、ビットコイン相場を支えなければならない状況には変わりはなさそうだ。もし価格安定に失敗すればテザーは「フェイクマネー」となり、仮想通貨市場の屋台骨を揺るがしかねない。
もう1つの問題は仮想通貨の業界全体にかかわることだが、銀行などの既存の決済システムになかなか受け入れられない点だ。仮想通貨はマネーロンダリング(資金洗浄)などの違法取引に使われるとの疑念がつきまとう。規制整備にかじを切った日本はまだしも、海外では口座開設や決済処理などを銀行に断られるケースが珍しくない。
ビットフィネックスも同様だ。スイスに本拠地を置く交換業者向け金融サービス提供会社、クリプトキャピタルに決済処理などで依存していた。ところが昨年夏~冬頃にかけて出金遅延が頻発したあげく、クリプトキャピタルに預けていた資産8億5000万ドル相当は事実上、引き出せなくなってしまった。その結果、ビットフィネックスは顧客の預かり資産のうちコントロールしやすいテザーで損失の穴埋めをしたとの疑惑が持ち上がっている。
ビットバンクの長谷川氏は「これだけ問題を起こしているにもかかわらず、テザーはいまも大量の中国マネーの受け皿になっているようだ」と指摘する。厳しい規制を受けている中国の個人などが手持ちのドルをいったんテザーに換え、ビットコインなどに振り向ける動きは根強いためだが、あくまでも局地現象にすぎない。
来年に採掘の報酬としてもらえるコインの量が半分になる「半減期」を控え、市場には「上昇相場に取り残される恐怖(FOMO=Fear Of Missing Out)も生じている」(米調査会社のファンドストラット)との声がある。だが、伝統的な金融・資本市場に比べると依然として課題が多いことを忘れてはならないだろう。
〔日経QUICKニュース(NQN) 尾崎也弥〕
※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。