米中の貿易戦争が一時停戦となり、市場の関心はファンダメンタルズとりわけ企業決算に向かう。注目は11日に発表予定の2月期銘柄、安川電機(6506)。ハイテク銘柄の先陣を切るだけに今後の業績動向を占ううえで市場関係者の視線が集まる。リスクの前兆をかぎ取る「炭鉱のカナリア」の鳴き声に耳を傾けるべき局面だろう。
念のため書き添えておくと、北九州市に本社を置く安川電は、炭鉱用巻き上げ機用途などを始めとした炭鉱用電機品の製造販売にルーツをもつ。
■いくつもの連動性
2018年4月以降、四半期ごとに安川電と日経平均株価や米国株、中国株との相関関係を調べた。例えば日経平均との相関は18年7~9月期まではマイナスだが、10月以降は如実に強い相関関係を示す状況となった。
さらに興味深いのは中国株との連動性の高まりだ。上海総合指数はもとより銅の国際価格とも相関関係が強い。
相関の強まりは、米中貿易摩擦に端を発する中国経済への懸念が背景にある。設備投資意欲の低下はFA(工場自動化)関連の機器に幅広く影響が広まる。主だったFA関連銘柄と安川電とのそれぞれ相関関係を調べると、18年前半には安川電との相関が薄かったキーエンス(6861)やSMC(6273)なども相関が強く、不確定要素の多さゆえに「木」というより、FAという「林」でくくられて投資判断されている感が強い。
■市場は利益下振れ予想、株価に織り込む
安川電の20年2月期の売上高予想は前期比2%減の4650億円、営業利益は同7%減の465億円を見込む。アナリスト予想の平均値であるQUICKコンセンサス(6月25日時点、18社平均)の営業利益は434億円で、市場は下振れ予想だ。上下の半期で分けてみると3~8月期のコンセンサス営業利益は196億円(6社平均)に対し、差し引きすると9~2月期は238億円となる。上期の低迷を下期で挽回するシナリオだ。
上期が低迷する背景には何があるのか。クレディ・スイス証券では直近のリポートでスマートフォン(スマホ)の在庫調整に端を発した受注の二番底や自動車の販売不振に伴うロボット受注の下振れから、19年3~8月期決算時での下方修正を予想しているようだ。SMBC日興証券でも、スマホや半導体などハイテク関連向けの需要の鈍さから、ACサーボモータを含むモーションコントロール事業での3~8月期の生産調整の可能性を織り込んでいるもよう。
アナリストが示すストーリーが正しいとすれば、上期低迷を反映した会社側の業績下方修正もある程度は織り込まれているかもしれない。株価も4月に年初来高値(4365円)を付けた後に6月の安値(3025円)まで約3割も調整した。足元では既に戻り歩調にあり、半値戻しの水準(3695円)は達成した状況だ。
アナリストが目標株価を開示している17社の6月末時点の目標株価は平均で3588円。中央値でも3700円で、足元はこの水準も上回る。6月上旬の下落で通期予想の下方修正を織り込んだとすれば、問題はその「深度」だ。
コンセンサス今期の営業利益予想は前年同期比で13%減であり、会社側の下方修正がコンセンサスにさや寄せする程度にとどまれば許容範囲といえ、株価としては逆にあく抜けにつながる可能性も意識される。さらに会社側が受注環境の底打ちを明確に示すようになれば、相場全体のムードを一気に明るくすることになるだろう。
一方、下期の状況も曖昧な1Qの段階で早くも下方修正に踏み切れば、今後発表が控える3月期決算のFA関連企業にも下方修正が相次ぐリスクを意識せざるを得なくなる。ただし、安川電は19年2月期の連結業績予想を2Q、3Qのタイミングで2回下方修正しており、市場からはその精度を問う声もあった。
主要20カ国・地域首脳会議(G20)大阪サミットを通過し、ひとまずFA関連に悪い雰囲気はない着地を見たといっていいだろう。ただ、米中の貿易摩擦を巡っては中国の華為技術(ファーウェイ)への備品輸出の許容や協議継続が約束されたものの、大統領選を控えたトランプ大統領のことだ。どのような手のひら返しがあるかわからない。それを除いてもまだ、受注回復の時期やスピードなど先行き不透明感は根強い。
足元のリスクオンムードの中で、想定を上回る下方修正が出ても「安川電の事情」と都合よく受け止めてしまい、のちに足元をすくわれる。そうしたことになりかねはしないか。「カナリア」の声はいつになく聞き分けるのが難しくなっている。(弓ちあき)
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