QUICK編集チーム=伊藤央峻、写真=取材団代表撮影
東京電力ホールディングス(9501)の株価がさえない。年初来安値圏で推移し、予想PER(株価収益率)は2倍台と東証株価指数(TOPIX)の構成銘柄の中で最も低い。原因はもちろん原発を巡る「時間」と「資金」の先行き不透明感があまりにも強いことだ。廃炉作業も汚染水の処理も見通しがたっていない福島第一原発。12月上旬、日本記者クラブの取材団に参加して現状を視察した。
汚染水タンクは22年夏ごろに満杯に
まず、「時間」にからむ厄介な問題がある。安倍晋三首相が東京オリンピックの招致演説で「アンダーコントロール」と大見得を切った汚染水だ。放射性物質を含む汚染水を浄化したあとの処理水をタンクに貯めているが、2022年夏ごろまでに保管量の限界を迎えると試算されている。処理水には浄化しても取り切れない放射性物質トリチウムが含まれている。経済産業省は23日、薄めて海に放出する「海洋放出」、蒸発させて大気中に出す「水蒸気放出」などの案を示したが、結論は先送りされた。海洋放出には地元の漁業関係者らが強く反対しており、政府が難しい判断を迫られるのは必至の情勢だ。
デブリ取り出しに向けた調査が続く1号機(左)と2号機(右)
現在、原発構内の96%は一般作業服と使い捨てマスクで歩くことができる。構内を5時間ほど見て回った後の被曝(ひばく)線量は0.02ミリシーベルト。線量が高い1~3号機が間近に見える距離まで近づいたが、それでも胸部のX線検査1回分の線量(0.06ミリシーベルト)未満にとどまっており、人体に影響が出るとされる線量(100ミリシーベルト)を大きく下回った。
構内では多くの作業員を目にした。1日に約4000人が現場に入るが、その9割以上は建設会社など協力企業からの派遣社員で、東電本体の作業員は100~200人ほど。現在はデブリ取り出しに向け1~3号機の建屋の周りでの作業が活発化している。そうしたエリアはテロ対策のため、核物質までのルートなどがわからないように写真撮影が制限される場合が多かった。
廃炉完了への道のりは遠い。政府は直近に示した廃炉工程の改定案で完了時期を事故から「30~40年後」に据え置いた。ただ、原子炉内に溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しは難航している。2号機から2021年中に始めることは決まったが、デブリの正確な量や分布、成分などは正確に把握できておらず、作業量の見積もりもできない状態だ。
4月に東電が示した計画によると2019年度に1949億円、20年度に2336億円、21年度に2016億円が廃炉作業に充てられる予定。これは東電の2019年3月期の連結経常利益2765億円に匹敵する金額だ。デブリ取り出しの方法が具体的に決まれば、費用は更に増える可能性がある。
柏崎刈羽原発の再稼働も見えぬ道筋
巨額の「資金」面は言うまでもない。そもそも福島第一原発の廃炉や復興にかかる費用は総額22兆円と見込まれ、そのうち16兆円、年5000億円を東電が負担する計画になっている。この気が遠くなるような資金をねん出する「前提」となっていたのが、原子力規制委員会の安全審査に合格した新潟・柏崎刈羽原発の再稼働だった。だが、再稼働の方も具体的な道筋は見えておらず、つまるところ将来の収益計画が読みづらくなるリスクが増していくことになる。「投資家は原発関連のニュースで一喜一憂する状態を嫌気し、電力セクター自体を避けている」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券の荻野零児シニアアナリスト)という。
実は東電にはもうひとつ、将来の株式の希薄化という構造問題もある。政府は12年7月に1兆円分の優先株を引き受けたが、この優先株は30~300円の範囲で普通株に転換できる。上限の300円で転換されると33億株強になり、発行済み株式数は現在(約16億株)の3倍以上、30円なら20倍以上に増える計算になる。政府・東電は事故からの復興に必要な約22兆円のうち4兆円分を普通株の売却益で賄う計画だが、現状で株数増加や希薄化を見通すのはほぼ不可能で証券会社も株価算定ができない。極めて大きな将来の売り圧力要因が存在することだけは確かで、それもPERを2倍台に押さえつける材料になっている。