日経QUICKニュース(NQN）＝長田善行、写真＝ Xiaolu Chu/Getty Images

新型肺炎の感染拡大で公共交通機関の運行が停止した中国・湖北省の武漢市周辺は自動車産業の集積地であり、進出する日本企業は多い。春節（旧正月）後も封鎖状態が続けば、部品のサプライチェーン（供給網）に悪影響を及ぼすリスクがある。中国の消費マインドの落ち込みが販売低迷につながるとの見方もあり、自動車関連株に売り圧力が出ている。

■交通の要衝、合弁の工場が集積

24日のホンダ（7267）株は前日比で一時53円50銭（1.8％）安の2953円50銭まで売られ、2019年11月１日以来、およそ３カ月ぶりの安値に沈んだ。日産自動車（7201）も一時５円60銭（0.9％）安の616円を付け、11年９月以来、８年４カ月ぶりの水準に下落した。

■ホンダ（青）と日産（赤）の株価推移

交通の要衝の武漢は自動車産業の集積地だ。ホンダは中国合弁会社の東風本田汽車が武漢に３つの完成車工場を持つ。生産能力は合計で年間60万台で、日本国内の鈴鹿製作所（年53万台）を上回る。湖北省には日産自の中国合弁会社の東風日産の襄陽工場があり、日本企業以外でも仏グループＰＳＡと中国・東風汽車の合弁工場や、米ゼネラル・モーターズ（ＧＭ）と上海汽車集団の合弁工場がある。

中国政府は24日、新型コロナウイルスによる中国での肺炎の死者数が25人になったと発表。中国国営メディアは黒竜江省でも1人の死者が出たと伝えており、死亡者は計26人となった。世界保健機関（ＷＨＯ）は「国際的に懸念される公衆衛生の緊急事態」の宣言は時期尚早として見送ったものの、人口1100万人の巨大都市の封鎖はまさに「異例」であり、投資家の警戒感は根強い。

■長期化なら稼働ストップ、需要への影響も懸念

中国の春節の大型連休は同日から30日まで。もともと工場の稼働を休止する期間ではある。東海東京調査センターの杉浦誠司シニアアナリストは「まだ状況を見極める段階」としたうえで「問題が長期化した場合、完成車メーカーは工場の稼働を止めざるを得ず、その影響が懸念される」と話す。

物流網が停滞するとしても、中国国内の自動車販売店は手持ちの在庫で顧客の注文に対応することが可能だ。一時的に生産が止まった場合の「猶予期間」が残されているほか、東風汽車、東風本田汽車は、日産自とホンダにとってそれぞれの持ち分法適用会社。合弁会社の低迷が「２社の業績を大きく押し下げるようなことは考えにくい」（国内証券アナリスト）との楽観もある。

むしろ市場が警戒するのは、中国の自動車需要全体への影響だ。みずほ証券の王申申シニア中国株式ストラテジストは「春節中に感染者や犠牲者の増加に歯止めが掛からなければ、当局側は移動制限緩和などの措置はとりにくい」と指摘。「封鎖が長期化すれば当然、企業活動に制限がかかり、消費マインドの悪化は避けられない」とみている。欧州の排ガス規制などの課題を抱える自動車産業にとって、悩みの種は尽きない。

■武漢周辺に拠点を置く主な自動車関連企業・主要生産品目（企業ホームページや有価証券報告書などをもとに作成）

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