莫大な開発費、置いてきぼりの日本勢
証券アナリスト 三浦毅司(日本知財総合研究所)
難病の治療を可能にする画期的な遺伝子治療。2019年2月に厚生労働省はスイスのノバルティスが開発したCAR-T細胞療法「キムリア」の製造・販売と、アンジェスが開発した「コラテジェン」の製造(販売は田辺三菱製薬)の承認を了承した。いずれも保険適用が認められ、幅広い治療への利用が期待されている。
最先端の医療分野として注目されるが、開発費が莫大でプレーヤーはグローバルに展開する巨大企業に限られる。買収するにも、技術を持つベンチャー企業の市場評価はべらぼうに高い。日本企業の立ち遅れは鮮明で、キャッチアップも難しい情勢だ。
■特許出願から実用化まで10年以上
出所:PatentSQUAREにより日本知財総合研究所作成
遺伝子治療に関する特許出願は2010年ごろから大きく伸びており、現在でも積極的な研究開発が続いていることを示している。グラフの出願件数は日本国内に限ったものだが、遺伝子治療の場合、開発者は国際出願を行うため、日本のトレンドは概ね世界のトレンドと同じである。
治療薬は特許を取得した後、非臨床試験に3~5年、臨床試験に5~10年かかり、審査および承認を経て発売される。2025年以降こうした遺伝子治療の実用化が多く実現すると思われる。
■有力特許はグローバル・メガファーマに集中
特許価値評価ツールの「KKスコア」を用いて遺伝子治療の有力特許を多く持つ企業を調べると、TOP10はすべて世界的に展開するメガファーマ(巨大製薬会社)となった。日本企業では、ロシュ傘下の中外製薬が19位に入っただけだった。
出所:PatentSQUAREにより日本知財総合研究所作成
これは遺伝子治療の研究開発に莫大な費用がかかるのが理由だ。世界的な規模で臨床試験を行う必要があるため、開発費は1000億円以上に膨れ上がる。治療に関する安全性が完全に証明されているわけではないので大きなリスクも伴う。
■M&Aも「高値」の花
自社での開発が難しいとなれば、外から技術を取り込む、つまりM&A(合併・買収)ということになるが、遺伝子治療の分野で実績がある企業の評価は極めて高い。特にここ数年はその傾向が顕著で、2018年から2019年にかけて武田薬品工業や米ブリストル・マイヤーズスクイブが行った8兆円規模の買収のほかにも1兆円を超える買収案件が数多くある。
出所:各社発表資料を元に日本知財総合研究所作成
この財政負担に耐えられる日本企業は限定され、メガファーマとの差を埋めるのは容易ではない。
日本知財総合研究所 (三浦毅司 [email protected] 電話080-1335-9189)
(免責事項)本レポートは、レポート作成者が信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、レポート作成者及びその所属する組織等は、本レポートの記載内容が真実かつ正確であること、重要な事項の記載が欠けていないこと、将来予想が含まれる場合はそれが実現すること及び本レポートに記載された企業が発行する有価証券の価値を保証するものではありません。本レポートは、その使用目的を問わず、投資者の判断と責任において使用されるべきものであり、その使用結果について、レポート作成者及びその所属組織は何ら責任を負いません。また、本レポートはその作成時点における状況を前提としているものであって、その後の状況が変化することがあり、予告なく変更される場合があります。