感染拡大に収束の気配が見えない新型コロナウイルスの影響で東京五輪の今夏開催に対し延期を求める声が上がり始めた。日本市場にとって「ブラックスワン」のリスクシナリオが現実味を増してきている。五輪延期をどう織り込んでいけばいいのか。市場関係者の見方を拾うと以下のようになる。個別企業を担当するアナリストなどの予想にはまだ織り込まれていないだけに、来期の業績予想が押し下げられると現在の投資指標が示しているような割安感の前提も危うくなりそうだ。
■延期は重大な危機
2020 年度に予定されていた需要拡大の見通しが狂ってしまう(図表1)。3 月の日本経済研究センターが集計したESPフォーキャスト調査によると、2020 年度の実質成長率見通しは平均▲0.16%であった(2 月の予測平均は 0.45%)。この結果を延長して試算すると、筆者は仮に東京五輪が延期されると、見通しが▲0.39%ポイントほど下振れして、2020 年度の成長率見通しは▲0.55%までマイナス成長の幅が広がってしまうとみている。
また、新型コロナによる景気悪化は、すでに 2019 年度の実質成長率を▲0.72%ポイントほど押し下げるインパクトがあるとみる。仮に、コロナ・ショックが東京五輪の開催を後らせることになれば、マイナス・インパクトはさらに大きくなり、▲1.11%(=▲0.72%+▲0.39%)という計算だ。なお、ここでは、新型コロナの悪影響が 2020 年度の成長率に及ぼす効果は十分には織り込めていない。悪影響の長期化が蓋然性を高めてくれば、コロナ・ショックの惨禍は▲1.11%以上に増幅される。
万一、7 月の五輪延期となると、景気シナリオは大きく狂ってしまう。2020 年度に経済対策を行うことも正当化されるだろう。2019・2020 年度における経済ショック・経済イベントの効果として大きいものを並べてみた。(1)消費税増税の反動減、(2)コロナ・ショックの打撃、(3)東京五輪開催の刺激効果、(4)2019 年 12 月に決まった大型経済対策の効果、が挙げられる。これらのインパクトは、それぞれ(1)▲2.4 兆円、(2)▲3.8 兆円、(3)+2.1 兆円、(4)+2.1 兆円であると計算できる。
以前、新型コロナの影響がなかった段階では、(1)増税のダメージを(3)と(4)で相殺することが予想されていた。しかし、コロナ・ショックによって、そこに(2)が加わって、トータルの成長見通しが大きく下振れする。
さらに五輪延期が加わると、成長シナリオはさらに下振れすることが懸念される。経済は元々成長するポテンシャルが備わっていて、その力によって経済成長は安定(+4.3 兆円の押上げ、0.81%)するのだが、今回のショックはそれをほとんど食い尽くしてしまう可能性があるのだ。それを実数で表すと、コロナ発生前は、トータル+6.1 兆円→コロナ発生後は+2.3 兆円→五輪延期の時は+0.2 兆円まで小さくなる。これは重大な危機だ。筆者は、万一の五輪延期に備えて、事前に何らかの経済対策を用意しておくことが合理的判断だと考えている。
(第一生命経済研究所の首席エコノミスト、熊野 英生氏のEconomic Trends「五輪延期シナリオの検討」より)
■2020年の企業業績を下押し
東京オリンピックは重要なリスクの1つである。新型コロナの感染拡大が数週間以内に収束しなければ、今年夏に予定されている開催が1年または2年延期される可能性がある。東京オリンピックの景気押し上げ効果が最も際立つのは開催年であるため、延期となれば2020年の企業業績の下押しにつながる可能性が高い。
(UBSウェルス・マネジメント、チーフ・インベストメント・オフィス居林通氏の『日本株式:日本株が売られ過ぎである3つの理由』より)
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