NQNシンガポール=今晶
米資産運用大手フランクリン・テンプルトンが前週、インド部門が運用する低格付け債関連などの6本のファンドを閉じると発表し、静かな波紋を呼んでいる。ファンド閉鎖は新型コロナウイルスの感染拡大に伴う流動性(市場機能)の低下への対応だという。コロナ感染拡大の悪影響はインドだけではないが、新興国にはロックダウン(都市閉鎖)などで経済的な体力を奪われるとの警戒感が日本や欧米諸国に対してよりも強い。
ファンドの閉鎖日翌日の24日。インド金融・資本市場で大きな混乱は起きなかった。ロックダウンの長期化により金融機関などの活動が制限され、もっぱら相対で取引される債券や外国為替の市場の停滞は世界的な傾向だ。先物やデリバティブ(派生商品)でできるリスク回避(ヘッジ)の手段も少ない。そのため、市場関係者は「ロックダウン関係国の資産はできるだけ何もせずに我慢するのが基本」などとまずは冷静に受け止めている。
投資マネーの流出加速が懸念
問題はロックダウンの緩和、もしくは解除後に実体経済や市場の機能がどれだけ早く回復するかだ。世界各国が景気下支えのための財政拡張を余儀なくされるなか、経常赤字とりわけ多額のドル建て債務を抱えるような基礎体力の弱い国では、投資家離れによるマネー流出が加速すると危機に陥りかねない。
インドも「財政赤字のファイナンスはやっかいな道のり」(モルガン・スタンレー)という状況にある。しかも貧困層が密集して暮らすインドでは衛生状態が悪く、ロックダウンの効果があまりあらわれていない。宗教行事などで集まる機会が多い点などを踏まえると、ロックダウンの緩和プロセスは不透明なまま。しびれを切らした投資家の退出が続く可能性は残っている。
シンガポールでも感染者が大量発生
経済基盤が相対的に強いシンガポールでも、企業活動を厳しく制限する「サーキット・ブレーカー」政策の期間が6月1日まで延びた。シンガポールで建設や物流業務などを担う外国人労働者はドミトリー(寮)と呼ばれる施設で集団生活をしている。ここで感染者が大量に発生したからだ。シンガポール政府は規制強化と外国人への重点的なケアで乗り切る構えだが、先行きはまだ見通せない。
シンガポールなどに拠点を置くヘッジファンドなどの投機筋は機械化が進み、厚みのない市場にはほとんど手を出さないようになっている。かつてのアジア通貨危機のような投機主導の混乱は生じにくい。だが、国の将来性に対する期待から長いスタンスで運用することで底流を作ってきたマネーが見切りを付ければ、事態は深刻になりかねない。フランクリン・テンプルトンの問題はアジア市場を含めた新興国のリスクを再認識させている。
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