NQNシンガポール=村田菜々子
先物市場の主な役割である価格変動リスクの回避(ヘッジ)機能が改めて評価されている。国際金融のハブ(中枢)の一角を占めるシンガポールのSGX(シンガポール取引所、@S68/SP)では新型コロナウイルス問題による市場の混乱を受けて取引が急拡大。2020年1~3月期の純利益は13年ぶりの高い水準だった。株価も約12年ぶりの高値圏で推移する。原油価格の急落にみられるように市場はなおも不安定で、SGXなどの先物取引所にとっては収益の追い風になりそうだ。
SGXの純利益は38%増
SGXが24日に発表した20年1~3月期決算は、純利益が前年同期比38%増の1億3750万シンガポールドルだった。現地メディアによると約13年ぶりの水準だ。価格変動に備える目的で株や商品、為替の先物などデリバティブ(金融派生商品)の売買が大きく増えたのに加え、近年伸び悩んでいた株式取引も1日当たりの平均売買高が58%増に膨らんだ。特に欧米勢によるアジア時間外での売買が増加し、全体の2割を占めるにいたったという。日経平均先物のほか台湾やインドの株価指数先物、欧米にはない鉄鉱石先物などが活況だった。
SGXは全収入に占めるデリバティブ取引の割合が約半分と、リスクヘッジの流れを味方に付けやすい収益構造だ。19年も米中貿易摩擦の激化などによる金融市場の不透明感の高まりを受け業績は好調だった。不安定な相場環境のもとでの業績押し上げ観測は強く、シンガポールの主要株価指数ST指数が19年末から24日までに22%下落したのに対し、SGX株は9%上昇した。
シンガポール金融大手のDBSグループ・ホールディングス(DBS)は24日、「SGXは今後もリスク管理の手段として恩恵を受ける」として業績見通しを引き上げた。投資判断に関しては足元の株価急騰を理由に「バイ(買い)」から「ホールド」に下げ、シティグループのように「4月には取引の急増が一服する」との予想も出てはいるが、株価がここから崩れていくとの観測も少ない。
期待はアジアの取引所に波及
アジアの他の取引所に対する業績期待も高まっている。デリバティブ取引に強い香港取引所(@388/HK)では、SGXと同様にリスクヘッジ需要を取り込めるとみられている。金融情報会社リフィニティブの集計によればアナリストは20年12月期に13%の増益を想定している。マレーシアの投資銀行ケナンガは「変動率の上昇に伴う株式取引増加を受けてマレーシア証券取引所(@1818/KL)が1~3月期に過去最高益を記録する」と予想する。
SGXのロー・ブンチャイ最高経営責任者(CEO)は1~3月期の決算資料で、新型コロナの影響がまだ見通せていないことなどから「(金融市場の)変動率の高い状況は長期化する」との認識を示していた。市場の混乱は行き過ぎれば投資家離れを招きかねないが、当面は先物などのデリバティブを扱う取引所を中心にプラスに働くことになるだろう。
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