対コロナで開発環境が劇的に進化
証券アナリスト 三浦毅司(日本知財総合研究所)
ワクチン開発の難易度は治療薬に比べてはるかに高い。適応症を広げる手法が困難なうえ、効果測定や安全性という面で治療薬よりはるかに厳しい結果が求められる。開発期間と投資回収という視点でもウイルス治療薬より課題が多く、ワクチン開発は極めて低空飛行であった。
その状況が一変しつつある。今回の新型コロナウイルスでは世界中の研究者が最優先の課題としてワクチン開発に取り組み始めた。楽観視は危険だが、官民総出で業界が団結した取り組みになれば、重複開発の削減や臨床試験の効率化が図られ、スピードの加速が期待できる。パンデミックに対する世界的な規模の取り組みになるきっかけになるかもしれない。
■新型コロナウイルスワクチンの開発状況(4/23現在)
出所:WHO資料を元に日本知財総合研究所作成
治療薬より困難なワクチン開発
罹病してから症状の改善のために投与するのが治療薬で、罹病前に投与し人の免疫をつけておくのがワクチンだ。ワクチンは当該疾病にかからない、罹っても軽微な症状で回復する効果が期待できる。
ただ、健康な人に投与するものである故にワクチン開発のハードルは高い。まず、ワクチンはウイルスごとに開発する必要がある。臨床前プロセスや臨床プロセスなどすべてが必要で、時間とコストが膨大にかかる。そして、ウイルスは簡単な構造であるため、頻繁に突然変異を起こす。特にインフルエンザや新型コロナなどRNAで出来ているウイルスは頻度が高い。開発しても突然変異を起こした後では効果測定が難しい。
流行期間も難点だ。ウイルス性疾患は流行期間が短く、開発が終わって認可されたころには終焉している可能性がある。そのころには集団免疫が形成されワクチンの効果測定も難しくなる。今回の新型コロナのように爆発的な感染が始まってしまうと、治療薬の臨床試験が優先され、十分な被検者が確保できないのも課題だ。
インフルエンザの流行が転機に
こうした特徴から抗ウイルスワクチンの特許出願件数は抗ウイルス薬に比べかなり低調だった。状況が変わったのは2013年頃だ。欧米のインフルエンザやアジアのコロナウイルスの流行などで、主に大学や研究機関を中心に特許出願が緩やかな増加に転じた。
特許の価値を示すKKスコアを用いて抗ウイルスワクチンで優れた特許を持つ企業をランキングしたところ、上位は米国を中心とする先進医療企業と研究機関が占めた。日本企業でも武田薬品工業の子会社であるタケダワクチンが3位に入った。
■抗ウイルスワクチンの有力特許保有企業
出所:PatentSQUAREのデータを元に日本知財総合研究所作成
実はウイルスワクチンの分野でメガファーマの存在感はそれほど高くはない。がんなど患者数の多い疾病にリソースを重点配分しているためだ。
今回の新型コロナでは世界的な感染により長期にわたる開発を事業として正当化できる。メガファーマが手をこまぬいている間に、日本で官民挙げての財政支援と開発の効率化が実現すれば、抗ウイルスワクチンで日本の企業や研究機関が優位に立つことも十分にありえる。今後、特許出願件数、ひいては新型コロナのワクチン開発が劇的に進むことが期待される。(2020年4月28日)
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