三菱商事(8058)が6月18日に期限前償還する2015年発行の劣後債1600億円を、劣後ローンで借り換える方針を決めた。国内事業会社の劣後債として初の借り換え案件となった。事前に格付け会社から借り換えなければ格付けに影響するとの言及があり、三菱商は主張を受け入れたと解釈する市場関係者は多い。順調に成長してきた劣後債市場の先行きに影響するとの懸念がじわり広がっている。
■米格付け会社S&Pの主張
三菱商は15年6月に公募方式としては国内初となる「ハイブリッド社債」を総額2000億円発行した。ハイブリッド社債は劣後債のなかでも、格付け会社が一部を株式と同様の資本として認めるタイプの債券で、発行側は財務改善の効果を期待できる。2000億円のうち1600億円を18日に期限前償還する方針を5月8日に発表しており、今回の劣後ローンで得る資金は全額を償還資金に充てる。
市場にさざ波を起こしているのが、三菱商の5月の償還表明後に明らかになった米格付け会社S&Pグローバル・レーティングの見解だ。S&Pは「借り換えをしなければ他に発行している劣後債の資本性も認めず、三菱商の資本が減り、格下げ圧力がかかる」と主張。資本性を認めなければ計3000億円の自己資本の毀損要因となると試算した。
15年発行の劣後債に同じく格付けを付与している格付投資情報センター(R&I)、ムーディーズ・ジャパンよりも強硬姿勢だ。三菱商が借り換えを選択したことで、S&Pの主張を受け入れたとの解釈が市場に広がった。
三菱商はこれに対して「投資家目線に立ってS&Pも含めて格付け3社全てから資本認定を受けることが必要と判断した」(広報部)とコメントした。
■期限前償還しない可能性
アイ・エヌ情報センター(東京・千代田)によると、19年度の国内事業会社の劣後債の発行額は3兆5140億円と、発行が始まった15年度の約2倍となっている。劣後債には発行から数年で期限前償還できる条項が付いていて、投資家は最初の期限前償還時での償還を前提に購入する。そのうえで普通社債に比べても高めの利回りを享受してきた。
ある社債市場の投資家は「手元資金を償還額に充てるというやり方は通用しなくなり、今後は期限前償還が行われない可能性も考慮しなくてはならない。劣後債市場にとっては逆風となる」と話す。盛り上がってきた劣後債の発行市場に水を差す恐れがある。
もっとも、他の発行体への影響については懐疑的な見方もある。みずほ証券の大橋英敏チーフクレジットストラテジストは「三菱商は格付けを維持するために、劣後債や劣後ローンを発行する必要がそもそもなかった」と指摘。そのうえで「S&Pは劣後ローンや劣後債のハイブリッド社債を継続的に発行する意思があるかどうかを見ており、その意思が今回は問われた」との認識を示した。〔日経QUICKニュース(NQN)松井聡、須永太一朗、神能淳志〕