世界最大の年金基金である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が7月3日発表した2019年度運用実績は厳しいものだった。4期ぶりとなる損失(8兆2831億円の赤字)を計上し、赤字幅はリーマン・ショックのあった08年度以来の大きさを記録。期間損益率は-5.20%(前期は+1.52%)で過去3番目に悪い数字となった。コロナ禍が直撃した運用成果となったが、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資のウエイトが大幅に上昇していることに留意したい。
■四半期として過去最大となる損失

GPIFは19年4~12月期に9兆4241億円の黒字を計上していたが、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた20年1~3月期に17兆7072億円の赤字(損益率-10.71%)に転落し、四半期として過去最大となる損失・損益率の計上を余儀なくされた。1~3月期は外国株式が10兆2231億円の赤字、国内株式が7兆4185億円の赤字と国内外株式の急落が収益を圧迫した。
■ESG投資のウエイト上昇

GPIFは国民年金と厚生年金の積立金を国内外の株式や債券に分散投資している。運用資産額は20年3月末時点で150兆6332億円となり、19年3月末(159兆2154億円)に比べて約5.4%減少した。積立金全体の資産構成は、国内株が22.9%(前年同月は23.6%)となり、基本ポートフォリオの中央値(25%)を大きく下回ったが、ESG投資の割合が増加していることが特筆されよう。国内株式に占めるESG投資の割合は11.3%(前年同月は6.0%)にほぼ倍増し、スマートベータや伝統的アクティブ運用の割合を上回った。
GPIFは17年度に日本株の3つのESG指数(FTSE RussellによるESG全般を考慮に入れた総合型指数である「FTSE Blossom Japan Index」、MSCIによる総合型指数「MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数」、MSCIによる性別多様性に優れた企業を対象とする「MSCI日本株女性活躍指数」)を選定し、同指数に連動したパッシブ運用を開始した。さらに、18年度にはESGのうちE(環境)に特化したS&Pダウ・ジョーンズ・インデックス社による炭素効率性等に優れた企業を対象とする「S&P/JPXカーボンエフィシエント指数」に連動するパッシブ運用も開始。これら4つの指数に連動する運用残高は20年3月末時点で4兆155億円(前年同月比1兆7060億円増)となった。
野村証券によれば、20年3月末時点でGPIFの保有比率が高い業種は銀行、建設、電気機器などで、資金純流入が大きかった個別銘柄として東京精密(7729)、ニフコ(7988)、ネットワン(7518)、島忠(8184)などを挙げた。19年度にGPIFがESG投資を積極的に進めたことを踏まえると、これらの銘柄に向けられた資金の多くがESG投資によるものだった可能性があると指摘している。
■その他年金でもESG投資開始
ESG投資に関して、短期的に運用収益の向上につながるか懐疑的な見方が少なくない。ただ、GPIFの年金運用は、長期的な観点から安全かつ効率的に行うことが求められていることから、長期のリスク管理としてESGを考慮した投資活動が行われている。GPIFが19年度に運用リスク管理ツールを新たに選定するなど、リスク管理を一層強化しており、しばらくは国内株に占めるESG投資の割合が高まる傾向が続くきそうだ。また、GPIF以外の年金ではESGに消極姿勢が目立っていたが、地方公務員の年金を運用する地方公務員共済組合連合会は20年度にも日本株のパッシブ運用でESG投資を開始するもよう。今後もESG関連の動きから目が離せなそうだ。(QUICK Market Eyes 本吉亮)
<金融用語>
GPIFとは
正式名称は年金積立金管理運用独立行政法人。日本の公的年金の積立金の管理・運用を行う独立行政法人のこと。世界最大規模の運用資産(2016年末時点で約145兆円)を保有し、英語表記「Government Pension Investment Fund」の頭文字をとって「GPIF」と呼ばれる。 国内債券中心に運用を開始したが、デフレ脱却後の経済環境の変化に対応し収益向上を目指すため、2014年に基本ポートフォリオを見直した。 2017年7月時点の基本ポートフォリオは、国内債券35%、国内株式25%、外国債券15%、外国株式25%。また2017年7月からは国内株式運用の一環としてESG投資を開始した。 前身は1961年に設立された年金福祉事業団で、2001年の特殊法人改革により年金資金運用基金が設立。2006年には年金積立金の運用改革で年金積立金管理運用独立行政法人へ改組した。