個人投資家が株式市場を席巻するのはマレーシアも例外ではなかった。新型コロナウイルス対策による外出制限や低金利環境のもとで株式投資を始める人が増え、証券取引所では売買高が過去最高の規模に拡大した。米国で株式投資アプリ「ロビンフッド」経由の取引が存在感を増したように、マレーシアでもオンライン主導の株式ブームが相場を支えている。
■活発な個人投資家の買い
マレーシア証券取引所では7月8日、全体の売買高が118億株と過去最高を更新した。地元メディアによると5月18日以来、約2カ月ぶりとなる。マレーシア証取における6月月間の売買高は1605億株で、4月から3カ月連続で1000億株を超えた。1カ月当たり500億株程度の水準だった昨年後半と比較すると目に見えて取引が活発になっている。
マレーシアの調査会社MIDFリサーチのまとめによると、マレーシア株式市場での個人投資家による6月の売買金額は昨年12月の3~4倍に膨らんだ。証取は6月の売買代金の47%が個人投資家によるものだったと分析している。
個人の買いに歩調をあわせてマレーシア株は右肩上がりで推移し、新型コロナ禍による下げを帳消しにしたうえでさらに上値を試している。主要株価指数クアラルンプール総合指数は10日に1月以来の高値圏まで浮上した。他の東南アジアの主要国株価が1月中旬の水準をいまだ1割以上下回っているのに比べて好調さが際立つ。

マレーシアは政治情勢などに不安を抱えており、海外からの資金流入は細っている。MIDFによると外国人投資家は2月末から前週まで21週連続でマレーシア株を売り越した。それを補ってあまりあるだけの買いが国内の個人から入っているわけだ。
■低金利が大きな要因
そんな中でマレーシア中央銀行がどんどん政策金利を引き下げた。今年に入って4回も利下げを実施し、政策金利はいまや過去最低の年1.75%。民間銀行も追随して貸出金利や預金金利を下げており、預金をしても利息収入は少なく、借り入れのハードルは低下している。現地ネット証券、楽天トレードのケニー・イー氏は、3月中旬以降に広がった個人の市場参加について「活動制限の強化とともに(相次ぐ利下げによる)低金利が大きな要因だった」と話す。
イー氏によると、現在、個人の人気が高いのは「ヘルスケアやテクノロジーなどのテーマ株」だという。大型株では、株価が年初来3~4倍ほどになったゴム手袋製造大手のトップ・グローブやハルタレガ・ホールディングスが筆頭だ。個人マネーは新興株投資にも積極的で、売買高に占める新興市場の割合も高まっている。マレーシア新興株式市場ACEの株価指数は3月に付けた今年の安値の2.2倍の水準まで上昇した。

他の新興国と同様に先進国株や原油価格などに一喜一憂しがちなマレーシア市場にとって、個人の存在は外部環境の悪化に対する耐性を高めるのに不可欠だ。今後のマレーシア株を占ううえで「マレーシア版ロビンフッド」の行方からしばらく目が離せない。(NQNシンガポール 村田菜々子)