8月4日の香港株式市場で、中国ネット通販最大手のアリババ集団が一時3.8%高まで買われた。きっかけは、上海と香港市場での新規株式公開(IPO)を計画する金融子会社アント・グループが「最大で300億米ドル(約3.2兆円)を調達する」との見通しを中国メディアが報じたことだ。実現すれば、2019年12月の上場時に256億米ドルを調達したサウジアラビアの国有石油会社、サウジアラムコを上回り、世界で過去最大のIPOになる。実現性は現段階では不透明ながら、ひとまずアリババ株には買いが向かった。
■上場は9~10月ごろに
調達額の予測は、中国メディアの「財新」電子版が3日に伝えた。アントが上場時に「2000億米ドルの企業価値を目指している」というのがその根拠だ。これが実現した場合、上場時には株式の15%以上を流通させなければならないという規定に従えば、調達額は少なくとも300億米ドルに達する計算となる。
財新は、上海市場で200億米ドル、香港で100億米ドルを調達するとの見方を示した。アントは7月20日に重複上場の方針を発表したばかり。上場の時期は未定だが、財新はIPO関係者の話として「9~10月ごろの上場になる」との見方を伝えた。
■企業価値2000億ドルは「可能」
アント・グループの前身はアントフィナンシャル。主力事業の電子決済「支付宝(アリペイ)」は世界で12億人を超えるユーザーを有する。香港メディア「信報」によると、アリペイは19年10~12月時点で中国の電子決済市場で55%のシェアを持つ。中国人民銀行(中央銀行)はデジタル人民元の導入に向けて動いているが、アリペイはその有力なプラットフォームのひとつになるとみられる。
決済業務だけでなく、資産運用商品の「余額宝」や個人信用評価システム「芝麻信用」などのフィンテック事業も展開している。申万宏源証券によれば、アントの業績は20年3月期の税引き前利益が281億元(約4200億円)と、当局による信用引き締めが重荷となった19年3月期(13億元)から大きく改善した。
アントの企業価値については、米ブルームバーグなどが18年時点では「1500億米ドル相当」とみていた。果たして「企業価値2000億米ドル、上場時の調達額300億米ドル」は実現可能なのか。香港の華晋証券資産管理の馮宏遠・最高投資責任者は「目標の2000億米ドルは、利用者数がより少ない同業の米ペイパル・ホールディングスの時価総額(2312億米ドル、3日時点)を下回っていることから、実現は可能」としながらも、「中国内外の市場は飽和状態に近い。中国消費の鈍化や中国と西側諸国の摩擦激化でこれまでのような事業拡大は難しい」と上場後の株価推移については慎重にみている。(NQN香港 林千夏)
<金融用語>
新規株式公開(IPO)とは
Initial Public Offeringの略。一般的には、(新規)株式公開とも言われる。少数株主に限定されている未上場会社の株式を証券取引所(株式市場)に上場し、株主数を拡大させて、株式市場での売買を可能にする。 新たに株券を発行して株式市場から資金を調達する「公募増資」や、以前から株主に保有されていた株式を市場に放出する「売出し」がある。 上場した企業は株式市場からの資金調達が可能になり、会社の知名度の向上によって、優秀な人材の確保が可能になるなどのメリットがある。一方で、投資家保護の観点から定期的な企業情報の開示(ディスクロージャー)が義務付けられる。